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【小説】転生したら、好かれるモブになりました。〈第27話〉

家族会議

 夜遅く、私とお父さんとお母さんは、キッチンに集まっていた。ルカとレオには内緒だ。
1人だけ、カウチソファーに座っているイスが、話を切り出す。
「セレーナは、精霊使いの才能がある。今、風の中級精霊と契約中だ。」

「えっ!いつの間にそんなことになったの?」
ソフィーが驚いた。

「私が来てから、契約を進めた。セレーナの周りに風の妖精が前世からうろちょろしてたみたいだからな。」

「そういえば、この子が生まれた時、突風が吹いて、その後風が花びらを運んできたの。妖精の気配がしたと思ったけど、多分その子なんだわ。」

「おいおい、ソフィー。そんな大事なこと、聞いてないぞ!」エドガーは、ソフィーにツッコミを入れる。

「言い忘れてたの!出産したばっかりでヘトヘトだったんだから!ふんっ」
ソフィーが冷たい目でエドガーを睨んだ。

セレーナが、慌てて止めに入った。
「わわ、お父しゃん、お母しゃん、ちょっと落ち着いて。それで、私をどうしゅるつもりでしゅか?」

「セレーナを私のいるアーヴェル半島(エルフ領)に連れていき、修行をさせようと思う。」

「えっ!!まだ、3歳ですよ?こんな小さい時から修行が必要なんですか?」
エドガーがぐいっと、セレーナを引き寄せた。

「必要だな。すでに、セレーナは、風の精霊と契約した。しかも、中級精霊だ。だから、マナの使い方をすぐ教えなければならない。この子は高いマナ濃度をもち、自然に対する親和性が極めて高い。女神達から祝福されてるせいもあるだろうし、隔世遺伝でハイエルフの遺伝が強く受け継がれているせいあるかもしれない。この子の髪の色も私の髪と近いのがその証拠だ。」

「確かにこの子は私の髪よりも白に近い金髪よね。」
ソフィーがセレーナの髪を撫でる。

「こんな小さな体に濃厚度なマナがあると、マナ溜まりができやすい。」

「マナ溜まりってなんでしゅか?」

「マナとは、魔法を発動するときの原料になるものでもあり、精霊達と己の精神をつなげ、精霊に『活力』を送るエネルギー体のことだ。」

イスは、自分のマナが見えるように、指先から、青いマナを見せた。まるで指から、青い炎が吹き出てるように見えた。

セレーナが、唖然とした。
「こんなのが、体の中に入ってるの?」

「ちなみに精霊使いは汚れの少ない純度の高い魂の持ち主じゃないと、精霊は扱えない。セレーナは、稀に見る純度の高い魂を持っていることになる。」

「マナはこの星に生きるものなら、誰の体の中にも多少なりとも持ってる。しかし、精霊使いになれるのは数が少ないのだ。」

「マナ溜まりとは、お前の小さな体にそぐわないの大量のマナがあることで、マナが濃度が高まり圧縮され、滞るんだ。だから、魔法や精霊への命令で溜まったマナを定期的に発散させないといけない。」

「もし、それをしなかったら?」

「近いうち、バーストを起こしお前もこの家ごと、吹っ飛ぶだろうな。制御するのが難しいので、小さい子どものうちが一番危険なんだ。」

「あの、バーストしないための訓練は、最低でもどのぐらいかかるの?」
「長くて3年、短くて1年だな。」

セレーナは、しばらく考えた。
「じゃあ私、1年間、おじいちゃんのところで修行してきましゅ!」

「「えっ???」」
ソフィーとエドガーが同時に驚いた。
「あなたまだ、3歳よ?平気なの?」

「私、前世からの年齢足したら、もう16歳だよ。」

「俺らからしたら、まだ3歳だ!」

「でも私と、この家と家族の為に行くんでしゅ。バーストを起こさないために、マナをコントロールしてシルフィールを上手く使わなきゃいけないの。」

「うわぁ〜オレを上手く使うって、セレーナは、怖いこと言うなぁ。」
シルフィールが、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けて頬つえをついている。

「きゃっ!!」ガタ、ガタン!!
「誰だお前!!」
エドガーとソフィーは、びっくりしすぎて、椅子から転げ落ちそうになった。

「こんにちは!僕、風の中級精霊、シルフィールといいます!セレーナと契約してます!」

明るく、ハキハキと自己紹介をするシルフィール。

「いきなり出てきたらそりゃ、びっくりするさ。」
エドガーは、頭を掻きながらシルフィールをまじまじと見た。

「僕、びっくりさせるのが趣味なんです!ぺへ♪」
ニコニコ顔のシルフィール。

「悪趣味だな。」イスがため息をつく。

「セレーナが、前世で直接死んだ原因を作ったのがこいつらしい。こいつが関わらきゃ、前世の光は死なずに別の人生を送っていただろう。」

「でも、ここに生まれ変わって幸せな家庭生活を送ってるのも事実だろ?」
シルフィールは、ウインクをした。

「ちっ」イスはシルフィールをギロリと睨んだ。

「私はシルフィールを憎んだりしたことないわ。私は、シルフィールがここまでついてくれて嬉しいの。」

「うちの孫はお人好しなのか、馬鹿なのか、私には到底理解できん。」イスは、淹れたての紅茶を飲む。

ソフィーが何やら迷ってる様子。
「ねえ、前世のこと話してもらえるかな?」
「話、長くなりましゅよ?」

 「俺らはお前の親だ!!それは変わらない。子供が抱えていること全て知りたいのが親ってもんだ。」

「分かった。でも、私の前世を知っても、気持ち悪がらないでね。」

セレーナは、目線を下に落として語りだした。
「私の前世の名前は、森下 光。13歳で死んだの。」

エドガーは、唾をゴクリと飲み込んだ。
「・・・ヒカリか、13歳で死んでしまったのか。」

セレーナ(光)は、ろくな会話もなく、辛くて孤独な家庭環境で過ごしていたこと、1人も友達がいなくて学校でイジメられていたこと、中学生で男の子に初めて告白されたが、全部嘘で騙されてたこと、何もかもが嫌になって逃げ出したこと。静流が追いかけてくれたこと、シルフの風の力がいき過ぎて交通事故に遭ったこと、死んだ後の話も全て話をした。

エドガーとソフィーは、俯いたまま動かなかった。

「でもね、ウルズ女神とヴェルザンディ女神とスクルド女神の三人が、私をここに転生してくれたの。
前世の記憶は女神様からの贈り物だって。」

「私は、ここに転生して変わった。私こんなに喋れるようになったのよ。明るくなれたの。お父しゃん、お母しゃん、ルカとレオ、温かい愛情のおかげ。」

「前世の光は、未来が見えてなかった。世界は灰色のまま、冷たい視線を浴びながら、ずっと影で独りぼっちで過ごして、誰にも理解されないまま、漂うように片隅で生きていくしかなったと思う。」

イスを見て、セレーナは涙目で笑った。
「だから、シルフィールを責めないであげて。私、死んで良かったと思う。」

「………。」

「ううっ……それでも、死んで良かったなんて言わないで!」
ソフィーが顔を隠して声を殺して泣いている。エドガーがソフィーの背中を優しく撫でている。

「でも、シズルって子は、お前が死んで悲しんでいたんだろ?そんな子はお前の唯一の理解者なんじゃないのか?もし、生きていたらお前の未来も少しは変わっていたんじゃないか?」

イスはセレーナに問いかけた。

「・・・どうだろ。人の心は移ろいやすいのはよく知ってるから。」
セレーナは俯いて目を閉じた。

(今頃、静流くん、私のこと忘れただろうな。)
セレーナは、心がズキンと痛くなった。

「やめろよ!イス!セレーナが胸を痛めてるじゃないか!年寄りならもっとマシな言葉をかけろよな。」

シルフィールは、涙目になって自分の胸を抑えている。

「はっ、お前、まさか泣いてるのか?」
イスは驚いた。

「悪いかよ!オレはセレーナの気持ちがダイレクトに伝わるからな!」

イスが口を抑えてしばらく考え込んだ。
「今日はもう遅い、お開きだ。」











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