【小説】転生したら、好かれるモブになりました。〈第18話〉
光の覚悟
光は暫く泉の水面を見つめていた。
静流がいなくなって急に不安が押し寄せていた。そして、たった1人でよその星へ転生することが怖くてたまらなかった。
ふと振り返ると、3人ともニヤニヤして光を見ていた。
「最後のアレ、かなりヤンデレだったよね〜」
とニヤリ顔のスクルド女神。
「若いって素晴らしいわ……」とウルズ女神。
「小さな恋の物語?いいわね〜〜。『また、他の男に騙されるなよ』って」
ヴェルザンディ女神が、抱きしめている真似をした。
「ねぇ、ウルズ姉さん!光の過去をもっと見せて、お願い!」ヴェルザンディ女神がいうと、
「私も観たい!」とスクルド女神もはしゃいだ。
「あっ……ちょっと待って!!」
光は慌てて止めようとしたが、ウルズ女神は、再び空中から、パッと本を取り出し、本は勝手にページをめくりはじめた。
「ヴェルザンディ!本の内容を泉に映すわよ!」
ウルズ女神も乗り気だ。
ヴェルザンディ女神が泉に手をかざすと、光と静流の出会いの始まりから映りはじめた。
小学生時代、光が苛められてる時に、遠くで静流が傍観していたこと。光の行動をいつも目で追ってウサギ小屋に行くのを静流は校舎の角でこっそり見ていたこと。静流が、男子から除け者になって泣いてる時に光に八つ当たりしてる映像が映し出された。
「はぁ?あり得ない!完全にヘタレじゃん!!」
スクルド女神は、怒った。
泉の画像がかわり、短い中学生時代になった。中学生になって、初日に静流が光に「幽霊」と揶揄してイジメていたこと。これをきっかけに田中愛と池村、山下から更に酷いいじめを受けたこと。川島にいじめから助けてもらった後、川島から告白されたこと。告白が嘘で騙されてしまったこと。耐えきれずに光が逃げて、静流が、光を追いかけたこと。それがキッカケで交通事故で死んでしまったこと。
「風の精霊力がキッカケで交通事故で亡くなったとは聞いてたけど、元を辿れば静流のやらかしから始まったのね。」ウルズ女神がすごい形相で泉に映る静流を睨んでいる。
「でも、お子ちゃまよね〜。13歳ってそんなものかしら?好きだから、いじめるっていう気持ち……不器用にも程があるわ。バカよね〜。」
ザンディ女神も腕を組んてため息を漏らした。
「愛す者の凄惨な死をきっかけに自分の愚かさに気付き、素直にアプローチするようになったのは成長の証ね。まぁ、死んだあとだけど、せめてもの救いだわ。」スクルド女神は、静流をフォローした。
「でも、川島って子に惚れちゃうなんてなんて案外、光ってイケメンに弱いのよね。」
スクルド女神が光のほっぺをツンツン指でさす。
「……あれは、『まともな会話』ができたのが、川島先輩が初めてだったから。自分が思ったことを伝えること、話を聞いてもらえることが本当に初めてだったんです。あの時、嬉しかったんです。私、この容姿だから、今まで友達と呼べる人いなかったし。……あの時勘違いしてたんです。浮かれてたんです。好かれるわけないのに……」
「でも、静流は?」
「夢の中で再会して、静流の意思でこっちの世界まで追っかけてきたんでしょ?」
「彼のことはどう思うの?」
「静流くんは………もう、二度と会えない。こんな気持ちに今更なっても意味ないし……。転生したら、この記憶だってなくなるでしょ?」
光は黙り込んで泉に映る静流の顔を見ていた。
足元の草花は、光のそばでユラユラ揺れ、花の中には雫がキラキラと輝いていた。
すると、スクルド女神が、光の手を握った。
「その記憶残してままにしてあげる。」
「えっ?」
「いいわね、私達からのプレゼントね」
ヴェルザンディ女神も賛同した。
「そうね、せっかくこの世界で勉強してきたんだから、きっと向こうでも役に立つはずだわ」
ウルズ女神も頷いた。
「たから、静流の事を忘れないであげてね」
スクルド女神は、目をキラキラさせて光に懇願した。
三女神は互いに目配せをすると、光の元へ歩み寄り、光を取り囲んでキュッと抱きしめた。
「「「大丈夫。今まで辛かった分、今度は幸せな人生を送らせてあげるから。」」」
そこへ、大樹で昼寝をしていたシフルがフワフワと光のもとへやってきた。
「何してるの?みんなで抱き合ってさ」
「ちょっとあなた、光の転生先に付いて行ってちょうだい!」ヴェルザンディ女神がいきなり命令を下した。
「えっ??」
シルフは驚いた。
「シフル!光がちゃんと幸せになるか見届けるの。二度、騙されないようにね!できなかったら、ビリビリハンマー食らわすから!」
ウルズ女神が、空間から、電気の走ったハンマーが出てきた。ハンマーを振りかぶってシルフに威嚇する。
シルフは、ビリビリハンマーの脅威に震え上がり、すぐさま光の後ろへ隠れた。
「実は、オレ!光に付いていきたいってお願いしょうとしてたんだ!今までこんなに親和性が高い人間に会ったのは初めてだったから。オレがアドバイスしてやるから、光は色んな精霊に会ってみろよ!きっと面白くなるぞ!!」
光はさっきまでの不安が消えて、シルフや三女神のおかげで新しい小さな希望が少しずつ湧いてきた。
光は女神達に頭を下げて、心から感謝した。
「ウルズ女神様、ヴェルザンディ女神様、スクルド女神様、ここまでしていただいて、ありがとうごさいます。私、覚悟を決めました。転生先で頑張ってみます!!シルフもお願いね!」