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転生したら、好かれるモブになりました。〈第9話〉

視線の先には…

光は、車にぶつかる前の瞬間を覚えている。横から黒い車に当たる前、高橋の必死の声が聞こえた。

『えっ?くる…』
ドカッ!!!!

……その後気づいたら、アスファルトの上に倒れていた。
(いやあぁ痛いっ!!体が焼けるように痛い!はぁぁ!!!ぐぐゔゔぅぅぁあああ……!!!)
 
身体中から、火山が大爆発するような鋭い超超超激痛が駆け巡る。今、光はその激しい痛みと対峙しなくてはならなかった。すると突然、勝手に身体ががたがたと大きく震えだした。

光のそばで爽やかな緑色オーラを纏った小さな小さな男の子が光の近くで眺めていた。その姿はまるで妖精のようだった。

『ごめんね、僕が風の力を貸したばっかりにこんな事になっちゃった……人間って脆いね。』
男の子はしょんぼりしている。

『でも君、さっきものすごく早く走れたでしょ?君が早く走りたいって願うからさ。つい本当は力を貸しちゃいけない決まりだったけど・・・』
妖精は申し訳なさそうにもじもじしている。

ちらりと目線を上げれば、高橋が、叫びながら泣きそうな顔をしていた。
(ゔゔっ…泣きそうなかお。…なんで…)

高橋の顔を光は、ぼーっと見つめた。必死の形相はまるで私に死んでほしくないかのように見えた。それが案外悪くないように見えた。

本気で心配してくれたのは、もしかして、高橋だけだったかも知れない。あの教室で他の3人は笑ってたのに、高橋のみ曇った顔をしてたからだ。

(死ぬ時は……きっと……私の側には………誰もいないて…思ったのに…。ずっと1人……ぼっちだと……)

不思議なことに心配してくれる高橋の顔を見ると、光の心はじんわりと温かく安らかになっていった。こんな経験は最初で最後だった。

今の光にとって『一人ぼっちじゃなかった。』という事実がどれだけ、うれしかったことか・・。積もっていた心の氷が溶けはじめると、血まみれの潰れた目からポロポロと涙が溢れ出した。

『た・か・は・し・あ・り・が・と』
必死に動かない口を動かした。もう二度と会えない高橋に最後に伝えたかったのだ。

いつの間にか、必死に叫ぶ高橋のことが嫌いになれなくなってた。それどころか高橋のお陰で、だんだんと死ぬ覚悟が出来るようになっていった。

はじめは、ガタガタと激しい痛みに身体が震えていたが、痛みもピークを超えると呼吸もどんどん浅くなり、痛みも鈍くなりはじめた。
震えも少しずつ治まっていき、今度は逆に何も感じなくなってきた。
身体はいよいよ鉛のようになると固まって動けなくなっていった。

風の妖精は怒った。
『こいつがさ、追っかけて来なきゃ良かったんだよ。オレが復讐を手伝ってやるよ』

 (だ・め)
光は目で訴えた。

『何でだよ!!お前、悪いことしてないんだろ?』

(も・う・い・い)
光は、目を閉じた。

それから光は、動かなくなった。






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