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【小説】転生したら、好かれるモブになりました。〈第31話〉

別れの朝

「え〜っと、忘れ物はないわね。」
ソフィーが朝早くから、パタパタと騒がしく荷物の点検をする。

「お母さん、まだ眠いでしゅ・・・。」
眠たい目をこすりながら階段を降りるセレーナ。

「ほら、こっちおいで。顔拭いてあげる!」
ルカはワクワクしているのか、朝から元気だ。

「おじいちゃんが、セレーナにびっくりさせることがあるって言ってたけど何のことだろうね。」

ソフィーはキッチンでバスケットに果物やパン、チーズ、ハムなど色々詰め込んだ。動物の革で縫った水筒2つを用意して、そこに水を入れると、【キープクール】と魔法をかけた。
ソフィーは、生活魔法の達人である。

 ルカが、セレーナの髪を梳いてツインテールに結んでると、レオを抱っこしたエドガーが上から降りてきた。

「おはよう、二人とも。」
「「おはよう!!」」ルカとセレーナが挨拶をした。

「2人、いや3人に大事な話があるんだ。」
「お父しゃんなんでしゅか?」

「本当なら、1年おじいちゃんのところで修行するつもりだったが……。その……。」エドガーが、いいかけると後ろからイスが現れた。

「ルカを強くするために、1年ではなく、5年間修行することになった。」

「「えっ?」」

1年で戻ってくるつもりだったので、5年と聞かされると気持ちが急に落ち込んだ。そして、セレーナは二人のソフィーとエドガーの顔を思わず見た。

2人は笑ってはいたが、作り笑いだとすぐに分かった。レオに関してはエドガーの胸の中で眠っている。

「それって、僕のせいですか?だったら、セレーナだけでも1年にしてください!」ルカは頼んだ。

「いや、セレーナも同じように強くなるために同じように5年間修行をしたほうがいいだろう。なんせセレーナは、この世界に数少ない精霊使いになりうるからな。」

「………。5年後、ちゃんと帰れましゅか?また、家族みんなで過ごすことができる?」

「ああ、修行が終わればな。」

エドガーたちは、覚悟していた。
セレーナはともかく、ルカとはここでお別れということを。5年過ぎたあと、16歳になるルカは帝国で帝王学を学び、そのまま皇室入りしなくてはならない。

いつかは、子供たちにはルカの出生の秘密を打ち明けなければならないが、子供たちは自分達を騙していたことに腹を立てるだろう。なじられるかもしれない。しかし、現実を受け入れてもらわなければならない。

「うっ、ううっ………」
思わずソフィーが泣き出した。
「お、お母しゃん?」
セレーナはソフィーに駆け寄り抱きついた。

ソフィーはセレーナを抱っこしながら、ルカに「おいで」と声をかけた。うつむきながらもお母さんに抱きついた。

「…お母さん、お母さん、お母さん、お母さん。」小さく呟いて、ルカは思い切り【母親】に甘えた。

ルカはずっと蓋をしていた。5歳のあの日から。
心の何処かで甘えたかったのに、レオにずっと譲っていた自分がいた。【自分がこの家の子供じゃない】
という事実が胸の奥に重くのしかかっていた。

でも、ソフィーに強く抱かれた瞬間、冷たく重い気持ちが軽くなっていくようだった。
(あぁ、やっぱりこのままこの家の子供でいたい。)

エドガーもたまらず、レオを抱っこしながら、ソフィーを抱き寄せた。

家族5人で1つになれた気がした。この感覚は、前世でも味わったことがない。胸が熱くなる気がした。みんな同じ気持ちなんだ。

「これが家族愛なのかな…。」セレーナは呟いた。

「そうだな。私を除け者にしよって」
イスが嫌味を言うと、それが何だか可笑しくなって泣きながらもみんなで笑った。

「5年経てばまた、こうして戻って来れるんですよね?」

ルカの返事にエドガー達は、すぐに返す言葉がでてこなかった。

ルカは【この家の子供ではない】ことを知ってるが、まさか自分が皇帝の子供だとは夢にも思わないだろう。もうこの家には戻ってこれないことを、今のルカは知らない。

「……あ、ああ、もちろん。戻れるさ。」
エドガーは、苦しい嘘をついた。

「じゃあ、頑張れるね、セレーナ!」
「そうだね、ルカお兄ちゃんがいれば、私怖くないかも」

なにも知らずに励まし合う兄妹に、エドガーは胸が痛くなった。心の中で、「すまない」と繰り返し謝るしかなかった。

イスは、窓の外をちらりと見るとにやりと笑った。
「そろそろ迎えが来たようだ。」

セレーナが、ソフィーから離れて窓に近づくと、大空に紫色に光る巨大な魔法陣が突如現れた。

「!!!」

エドガーやソフィー、ルカも窓に近づいて外を見る。

「な、なんだありゃ?!」
エドガーが叫んだ。

すると、魔法陣の中からゆっくりと白い巨大な飛行船が現れ始めた。

「初めて見る乗り物ですね。」
ルカはドキドキしている。

「あ、あれに乗っていくの?」
ソフィーが不安そうな表情をしている。

「おやおや、さっきまで抱き合って泣いていたのに、もう涙が乾いたのかな?」とイスはニヤリと笑う。

「おじいちゃんってえらい人なんでしゅか?だってあんな乗り物を迎えるなんて!!!」

「私は白い塔の塔主だからな。」と自慢げに話す。

「私があの白い飛行船の開発に携わった。これでも魔法工学を専門にしてるのだからな。技術開発は、国を豊かにすると私は思っている。あの飛行船もドワーフの協力を得て白い塔が開発したのだ。」

普通エルフは他種族の関わりを嫌い、自分達だけで問題を何とか解決しようとする。

しかし、イスは違う。イスは目的達成のためなら、他種族の交友もありだと考えている。イスは、エルフの中でも「外交派」の代表でもあった。

カランコロン、カランコロン。

ソフィーは、急いでドアを開けた。
「御塔主様、お迎えにあがりました。」

白い制服を着たエルフが玄関先で待っている。

「では、ルカとセレーナ行こうか。」

 エドガー、レオ、ソフィー、ルカ、セレーナ、イスはぞろぞろと家の外へ出た。

すると、エドガーに抱っこされていたレオが、目を覚ました。
「んっ、ふぁああ、あれ?もう出発するの?」
眠い目をこすると、いきなり目の前に白くて巨大な飛行船があった。

「うわぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
「いいな、あれに乗るの?オレも乗りたい〜〜」

レオはエドガーから離れると、庭を駆け回り、牧草地に着陸している飛行船の周りを走り回った。

飛行船を見た近所の人達も何事かと駆けつけていた。村の人達がどんどん集まってきて、ちょっとした騒ぎになった。

「はぁ、何だか大騒ぎになってきたな。」
イスが周りを見渡した。

セレーナは、飛行船にある複雑な魔法陣を目にした。「あのマークはなんでしゅか?」

イスは待ってましたと言わんばかりの顔で説明を始めた。
「あれは、4重魔法陣だ。1つは、さっきも見た空間移動の魔法だ。もう2つ目は空気抵抗を極限に減らす魔法だ。3つ目は、横からの突風を相殺する魔法が魔法陣の中にかけられている。そのおかげでブレずに前と後ろにしか進まないように出来ている。お前のように、魔法酔いしたくない奴のために開発したものだ。」

「最後の4つ目は認知阻害機能と物理防御壁が備わった守りの魔法陣だ。そこら辺にグリフィンが通っても気が付かないようになっている。これで空の移動が安全になるというわけだ。」

「これからは、金持ちを対象にした観光資源にもなるかもな。今日が、この船のテスト飛行にもなる。」

「え〜っテスト飛行?!」
セレーナは、急に怖くなった。

「ハハハッ、ウィーゲルのレンズケーブ村から、アーヴェル国のハルダンゲルツまで、1178キロある。あのエルフポルタ山脈を超えて一直線だ。」

イスはいつもクールだが目がいつもよりキラキラしているのは気のせいだろうか?

「おいで、レオ。中をみてみるかい?」
「いいの?やった!!!」
レオはイスと飛行船の中に入っていった。

エドガーが1人、皆とは離れたところで過ごしていると、ルカがやってきた。

「お父さん、セレーナのことは心配しないで。」
「いいや、違う。」
「何が違うんですか?」
「・・・・。」

エドガーは我慢していたのか、自分の顔を隠すように、ルカを懐に包み込むように抱きしめた。

 「ルカ、5歳のあの日。おじいちゃんがここに来た日から、お前が俺等に遠慮していたのは何となく気付いていた。甘えたいはずなのに、レオを優先させて、一生懸命「お兄ちゃん」をしてくれたよな。」

「えっ?何で・・・」

「お前が俺等のことどう思ってたかは知らないが、俺等はな、赤ちゃんの時からずっとお前を息子のように愛している。」

「!!!」

「俺らは、お前の成長を一喜一憂しながら見守ってきたんだ。お前は【この家の子供ではない】ことに気を取られているかも知れないが、お前は間違いなく俺達に愛されて育った子供なんだ。これは紛れもない事実だ。オレも、ソフィーもお前の寝顔をみるのが幸せだったんだよ。」

「………お父さん。」

「いいか、何を知っても、お前は家族の皆から愛されてること絶対に忘れないで欲しい。不安にならないで欲しいんだ。」

「分かったよ、お父さん。でも………」
ルカが言いかけた。

「今まで怖くて聞けなかったけど、僕の本当のお父さんとお母さんは今、どうしてるの?」

「聞きたいのか、今?本当に?」
「うん。」ルカは小さく頷いた。

エドガーは頭を抱えると、覚悟を決め語り始めた。

「ルカのお母さんは、ルカを出産してから、間もなく亡くなってしまった。ルカのお母さんは、ディアブロ国から派遣された王宮薬剤師のサキュバスだ。名前をリリスという。」エドガーは、リリスが殺されたことをあえて言わなかった。

ルカは、やっと腑に落ちた気持ちだった。道理で自分のマナが闇属性だったわけだ。
「お母さんが魔族だったんだね。」

「お前の本当のお父さんは、バルドル帝国のシラフ皇帝だ。私は、命を狙われていた赤ん坊のお前を助けて欲しいと頼まれたのだ。」

「お前のお父さんは、お前の事を考えて私に託したのだ。だからすぐに理解しろとは言わないが、シラフ皇帝をどうか憎まないで欲しい。」

「僕が皇帝の子供?そんな馬鹿なことある?命を狙われてたってどういうこと?」

ルカは、混乱していた。

「恐らく、アイリス皇后がお前の事を殺そうとした黒幕に違いない。確信はあるが、これと言った物証がない。いや、残さないんだ。今でも密偵がお前のことを探しているかもしれない。どちらにしろ、油断するんじゃないぞ。向こうへ行っても、バルドル帝国と懇意にしてるエルフ族には気をつけるんだ。」

「ルカ、お前の本当の名前は、ノヴァ・フォンス・バルドル。 第4皇子だ。ノヴァは【新しい】という意味があるらしい。シラフ皇帝は密かにお前のことを後継者にしたいようだぞ。」

ルカはますます混乱した。
「えっ、後継者って………」

「出発のお時間が来ました。ルカ様、ご案内致します。」イスの部下らしき人がルカを迎えに来ていた。

「……、お父さん、僕そろそろ行かなきゃ。」
「………。そうだな。分かった。」

2人は黙って飛行船のところまで歩いていった。
ルカは、お父さんの言葉を聞いてから心ここにあらずの状態でボーっとしている。そのままルカは、別れの言葉も言わないまま、1人黙って客室に乗り込んでしまった。

セレーナは、ルカの様子がおかしいのに気付いたが、なんとなく声をかけられる雰囲気ではなかった。

そんな時、テラリベラとシルフィールが不意にセレーナの隣に現れた。

「これ何?これに乗るの?へぇ〜楽しみ!!」
「何だか、ワクワクするのぉ!!」
ルカとは違って、2人はピクニック気分だ。

「フフフッ。お気楽な2人がいてくれて、助かったでしゅ。」
ルカのことは気になるが、今すぐ出発するのだ。後戻りはできない。

乗降口の前で、セレーナは、イスに抱っこされると、皆に大きく手を振った。

「お父しゃん!お母しゃん!レオ!!私、いってきましゅ!!」

「おう!!頑張れよ!!!」
レオは大きく手を振る。

「ルカのことお願いね、セレーナ!!」
ソフィーも手を振った。

「俺等はここで待ってるからな!!」
エドガーは泣きながら叫んだ。

ご近所の皆や村の人達が手を振ってワイワイ見送ってくれた。「頑張ってこいよ!」

いよいよ巨大飛行船がぐらりと浮かび上がり、いよいよアーヴェル国へ出発した。





















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