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転生したら、好かれるモブになりました。〈第26話〉
おじいちゃんの襲来その2
セレーネは唖然として立ち尽くしたままだった。
なぜなら契約したら、あんなに小さかったシルフが、突然ルカお兄ちゃんぐらいの大きさになってたからだ。
「なにが、起こったんでちゅか?」
「下級精霊だったシルフが中級に昇格して、シルフィードに成長しただけだ。」イスが、説明する。
『オレ、セレーネのおかけで中級精霊に昇級できたんだ!!!』
突然突風が吹き荒れたかと思うと、みるみるうちに上昇し、空を駆け巡り、周りの木々たちを大きく揺らした。
『オレの名前はシルフィードじゃない!フィール[感じる]をつけて、シルフィールにする!!』
そう叫ぶと、広い牧草地の草を波のように揺らし、山のように積んであった干し草を吹き飛ばした。
「調子に乗るところは変わってないね。」
セレーネは、頭を抱えてため息をついた。
『シルフィール、戻ってきて!!』セレーネが叫ぶと、素早く戻ってきた。
『ねぇ、聞いてセレーネ。シルフの頃より風の力が増した気がするんだ。最高だよ!』
『だからって、せっかく積んだ干し草吹き飛ばしちゃだめでしょ?』
セレーネが、しかめっ面で腕組みをする。
すると、いきなりシルフィールが屈んで、セレーネを抱きしめた。
『オレは今まで【共感する気持ち】が欠けていたんだ。セレーネの悲しい気持ちとか辛い気持ちとか全然分かってあげられなかったけど、今なら分かるよ。これからは、セレーネの気持ちを共感することができるんだ。もちろん、大好きっていう気持ちもね。』
それを聞いて、セレーネは胸が一杯になった。セレーネも、シルフィールをぎゅっと抱きしめた。
『私も大好きだよ。』
『オレだって』
「はぁ……ほら、もうその辺でいいだろう。」
頭を抱えて、イスが間に割って入ってきた。
「セレーネは、精霊に対して感情移入が強すぎるな。精霊は、人間ではないんだぞ。」
「でも、大切なのは変わらないでしゅよ、おじいちゃん」
セレーネは、手のひらに持っている、フローラの魔石をちらりと見た。
「私にとっては………。」
「それはなんだ?」
「花の妖精フローラの最後の贈り物でしゅ。」
「ふーむ。これは大事に持っておけ、災いからに身を守る効果があるようだ。(あと、魅力の効果もな)」
「お~い、セレーナ、どこにいるんだい?」
エドガーの声が玄関から聞こえる。
「お父しゃん。こっちでしゅ。」セレーナが、お父さんに声を掛けると、エドガーが、やってきた。
「やっと来たか、エドガー・フォン・クレメント」
威厳のある声でイスが待ち構えていた。
いつになくエドガーが緊張し、右手を胸に当て、左手を腰の後に。右膝を地面につけて、左膝をたてた。騎士の挨拶だ。
「ようこそ、我が家へ来て頂きました。心より感謝申し上げます。御父上。」
イスが冷たい視線でエドガーを見つめる。
「御父上など、呼ばないでよろしい。」
変な空気が流れている中、セレーナは思わずシルフィールの後ろに隠れた。
「うーむ……。お前の腕が訛ってないか、私が直々にチェックしてやる。さっさと練習用の剣を持ってこい。」
エドガーが、唾を飲み込んだ。
「はい、今持ってまいります。」
「おじいちゃん、剣術ができるの?」
「フフフ、私を誰だと思ってるんだ。エルフの中でも選ばれた男だぞ。剣術の一つできないでどうする?」
☆☆☆☆☆
しばらくして、広い庭の前でお父さんの剣術の腕をみることとなった。
玄関先では、ソフィー、ルカ、レオ、セレーナついでにシルフィールが片付を飲んで見守っている。
イスは、先が丸いレイピアを右手で持ち、切っ先をエドガーに向けている。余裕の表情だ。
エドガーは、左足を半歩前に出すと、ロングソードの柄を肩まで持ち上げ、剣身を斜めに下げた。
エドガーは、腰を落として、攻撃のタイミングを見計らっている。
(全く隙がない。こちらから、誘導するしかないか)
エドガーが、左回りに大きくロングソードを回すと、自身も遠心力で左回転をしてリーチを詰める。
ガキーーン!ガキーーン!!ガキーン!ギギギギッ剣と剣の金属音が鳴り響く。
ガツン!!!猛烈なレイピアが、ロングソードの平面を突いてきた。
(ぐっ、馬鹿力が!!ロングソードがこれじゃ折れそうだ。)
キン、キン、キン、キン、キン、ガキーン!!
金属音が速度を上げてエドガーを追い詰める。レイピアは、ロングソードの隙を突いて襲ってくるものの、エドガーは何とか上手く躱し、胴体を大きく後ろに反らした。
ガシャン!!
レイピアの刀身をロングソードの大きな鍔に引っ掛けると、素早く引き寄せ、右側に回し込んで勢いよく叩き落とす。
その反動で、エドガーは、体幹を右回転をして、左足を軸に右足の踵で後回し蹴りをした。
しかし、素早くレイピアを手放したイスは俊敏に躱し、後ろに身を引くと、今度は氷で出来たレイピアで構えていた。
「それ、ずるくないですか?」
「何を言ってるんだ?戦場でもそんな戯言言うつもりか?元騎士団隊長。」
「ちっ、その呼び名は辞めてください。今はただの平民ですので。」
エドガーは、右手をロングソードのグリップを短く持ち、レイピアと同じ構えをした。
「そんな構え方、鍛えたお前にしかできないだろうな。」
「戦場では、何でもありですから。」
キン!キン!キ、キ、キン!!キン!!
互いの剣先を叩き、巻き込み回しながら何度も牽制し合う。
エドガーはロングソードの平面で、レイピアをドンと叩き伏せると、その隙に剣先を絡めながら左回転させ、氷のレイピアを空に突き飛ばした。
その隙に、重心を低く構えて右から左へロングソードの剣身を胴体めがけ、勢いよくスライドさせていく。その瞬間、鍔の近くで握ってた手を緩めて柄頭のほうで握りしめた。その分ぐんとリーチが長くなった。
しかし、ガキン!イスは氷のレイピアを瞬時に作り、刀身を縦にして横からくるロングソードを受け止める。
(ぐっ、力で、押し切ろうともびくともしない!)
イスは、剣を受けたままレイピアを地面に突き刺すと、レイピアを軸に、素早い動作でエドガーの顔面に強烈な回し蹴りを繰り出す。
「グワッ!!!」
エドガーは、左腕で顔面をガードしたものの、2,3メートル吹き飛ばされて、尻もちをついて倒れてしまった。
イスは、さっき落としたレイピアを拾い、切っ先をエドガーの喉仏に向けた。
「はぁ、参りました。」
エドガーがぐったりうなだれる。
家の玄関で見ていた家族は2人の戦いを見て、呆然としたものの、みんなで大きな拍手をした。
「二人とも動きが速くてよく分かんなかったよ。」とレオが1人興奮していた。
レオは剣術を父親から学んでいるため、ますますやる気になっていた。
ソフィーは、エドガーの元へ駆けより『ヒール』で赤く腫れた左腕を癒す。
「相変わらず力が強いですね。敵わないや。」
エドガーが頭を掻いて笑うと、
「力で敵わなければ、その力の流れを利用すればいいこと。そのぐらい分かるだろ?」
イスは服を叩きながら、エドガーの元へ近づいてきた。
「お前はもう少し動体視力を鍛えたほうがいいな。さっきの蹴りだって以前だったら避けられたはずだ。」イスは冷静に分析した。
「騎士を辞めてから11年過ぎてますからね。訛ってると言われても仕方がないです。」
「年齢を言い訳にするな。持ってるものを腐れせてどうする?」と一喝する。
「騎士を離れたとしても、己を信じ鍛錬に鍛錬を重ねれば、また新たな能力が開花する。お前なら、剣術道場を開くのも夢ではあるまい。ここで小さな剣士を育てるのもいいのではないか?」
とイスは、レオをちらりと見た。
「御父上……。」
「レオは、お前が、きっちり剣術を教えろ。私は、セレーナに、精霊使いの技術を教え込む。」
「「えっ!!!セレーナが精霊使い?!」」
ソフィーとエドガーは目を丸くして、セレーナの方を見つめていた。