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【小説】転生したら、好かれるモブになりました。〈第22話〉
赤ちゃんの脱出
セレーナ(光)は早く成長したかった。
赤ちゃん時代がこんなにも長くて遅く感じるとは思わなかった。
4カ月で首が座り、6カ月で寝返りをし、離乳食を食べはじめ、8カ月でハイハイを始めた。やがて伝い歩きができるようになり、1歳頃になると、やっと1人で歩けるようになった。しかし、言葉はまだ、限られた単語しか話せない。
正直、寝る、食べる、排泄するの生活を繰り返す生活にうんざりしていたのだが、それでも家族みんなで良くしてくれたので、それはそれで居心地が良かった。きっと『愛される』とは、こういうことなんだなと実感していた。温かく、こそばゆい感覚だった。
こんな素敵な家族だが、一つだけ嫌なことがある。その嫌なことを今からこのお父さんは始めようとしていた。
「ソフィー。なぁ今夜はいいかい?」
エドガーが、ゆっくりとシャツを脱いで筋肉質でワイルドな上半身をあらわにした。背中には無数の傷がある。
「セレーナが起きたら大変だから……。」
ソフィーはセレーナの側で、やんわり断る。
エドガーは、ベビーベッドを覗き込み、セレーナが寝ているのを確認すると、「大丈夫!寝ているよ。」といって、ソフィーの肩を抱き寄せた。
「もう、子供は3人で充分よ。」
ソフィーは、またしてもやんわり断ると、
「大丈夫、気をつけるから」と、エドガーは、ソフィーの耳にキスをした。
「んっ……エドったら、どうしても今日じゃないといけないの?」ソフィーが粘る。
「君に、触れていないと俺がどうにかなりそうなんだ。」とソフィーの手を掴み、エドガーが膨らんでいるところに触れさせた。
「………もう、しょうがない人ね。」
「全くだ」
エドガーは、愛しそうな笑顔でソフィーに軽くキスをすると軽々お姫様抱っこをして、ベッドへ移動した。
セレーナ(光)は、この部屋から直ぐに出たかった。濃厚な2人のベッドシーンが今から始まるからだ。(仲が良すぎるのも問題だわ。)
セレーナは、心のなかでシルフを呼んだ。
しかし、なかなかシルフは現れない。しょうがないので、1人でベビーベッドの柵を乗り越えて、向かいの子供部屋に移動しようと思いついた。
(大丈夫!今回はもう歩けるようになったし。)
セレーナは、寝返りをうつふりをして2人の様子を伺った。
エドガーは、こちらに背を向け、ソフィーの白くて柔らかな太ももを大きな手で鷲掴みにしていた。
「んっ……んっ……あぅ、そこ吸っちゃだめ!…」
エドガーのキスの嵐が聞こえる。
「あぁ、なんて君は綺麗なんだ、ソフィー。俺は、これからも君をずっと愛し続けると誓うよ、ソフィー。」
「はぁ、愛してるわ……エド……。」
(ぎゃ〜!!鳥肌立つわ!!私の心は思春期なのに赤ちゃんになってこんな場面に何度も居合わせるなんて…。でも、今回はだけは違うわ。)
セレーナは、逃げたい気持ちで一杯になっていた。気付かれないように、ベビーベッドの柵に短い足をかけて、静かにそっーと、体重移動をしようとした。
「あっ…あっ……んっああぁん!エド!!!」
突然の大きな声にビクッとしたセレーナは、グラっと体が傾き、逆さに落ちてしまった。
頭を床に打ちつけようとした瞬間、ギリギリなところで動きが止まった。
セレーナは逆さになったまま、宙にプカプカ浮いてる状態になっていた。
『何してるんだよ、光!!』
シルフが、怒ってる。
『ありがとう。助かった、シルフ!』
シルフとは、すでに思念で会話ができるようになっていた。なので、時々シルフが来たときは、おしゃべりを楽しんでいた。唯一話せる妖精だから。
『危ないじゃないか!どこ行こうとしたの?』
『向かいの子供部屋に行こうとしたの。』
『そうか…』
シルフは、ベッドにいる2人をちらっと見ると、ため息をついた。
『確かにな。見てられないよな。人間の交尾。』
『交尾って言わないで!恥ずかしいから!』
『でもあの2人が交尾しないと、お前はここへは来れなかったんだから、そこは感謝しないとな。』
シルフは何だか偉そうにしてる。
『………それは分かってるけど。でも今は、ここにはいたくないの!子供部屋に連れてって。お願い!!』
ベッドは、リズムよく軋み、肌と肌が打ちつける音が鳴り響く。2人が夢中になって揺れている最中、一方後ろでは赤ちゃんは宙にプカプカ浮かんでいた。
セレーナとシルフは静かに音を立てずに、ドアを風で開け、そっと部屋を出ていった。
『ふ〜っ、脱出成功。緊張して喉渇いたから、水飲みたくなっちゃった。』
『しょうがねぇな。キッチンまで連れていくか』
シルフと私はプカプカ浮かびながら階段を降りていった。
静かで暗いキッチンに着くと、シフルが風の力で、食器棚からコップを取り出してくれた。水甕から、杓子で水をくんでコップに入れる。
『は〜、やっぱり冷たい水はおいしい。』
セレーナは、宙に浮いたまま水を飲んでいた。
『あまり飲みすぎると、お腹壊すぞ!』
『大丈夫よ!心配しないで……あっ!!!』
ガシャン!!
セレーナは、手が滑ってコップを落として割ってしまった。
『起きてきたらまずい!!隠れよう!!』
2人は本棚の後ろへ隠れた。
『・・・。』
『・・・・・。』
『・・・誰も降りてこないみたい。良かった。』
『おい、しっかりコップを持てよ、光!』
『だって、手が小さいから持ちにくかったの!』
『これだから、赤ちゃんはイヤなんだ…。』
『……ごめんなさい。』
シルフは、風の力でコップの破片を吹き飛ばすと、ゴミ箱に破片を入れた。
『世話が焼けるんだから、全く!』
『……今はこんなだけど、もうすぐ大きくなるもん。』
セレーナは、涙目になると、シルフは、オロオロした。赤ちゃん生活していると、気持ちまで幼児化してしまうのか。
『あぁ、分かったから、絶対泣くなよ。みんな起きちまう!』
シルフは、セレーナの口を塞ぐと急いでセレーナを子供部屋まで連れて行った。
子供部屋のドアをそっと開くと、両端にベッドが2つある。右側にレオ、左側にルカが寝ていた。
セレーナは、ルカのベッドにこっそり潜り込むと、気配を感じたルカは目を開けるとびっくりした。
「・・・セレーナじゃないか。どうしたんだい?ベビーベッドで寝てたんじゃなかったかい?」
「めん!ここ、ねんね?」
(ごめん!ここで寝ていい?)
ルカはニッコリ笑って、
「いいよ。一緒に寝ようね」
セレーナは、やっとのことで安心して、眠りについたのだった。
◇◇◇◇◇
「キャーーッ!!セレーナがいないわ!!」
「なに?本当だ!何処だ?!どこ行った?!」
翌朝、目覚めるとセレーナが忽然と消えていた。
エドガーとソフィーが血の気が引くほど青ざめ慌てふためき、部屋中あちらこちらを探した。
「お母さん、おはよう。どうしたの?」
ルカがセレーナを抱っこして寝室に来たので、2人は、ホッとして腰から力が抜けたようだった。
ここで勇気を持ってセレーナが、2人に指をさす。
「ここ、ねんね、や〜!!!」と強く伝えた。
(ずっと言いたかったのよね。この言葉。)
ルカは赤ちゃんのクセに真面目な顔してそんな事を言うのが可笑しくて、ケラケラ笑った。
「ハハハッ、お父さん、お母さん。セレーナは、ぼくたちの部屋で寝たほうがいいみたいだよ。昨日、ぼくたちの部屋に1人で来てたんだよ。凄いだろ?」
「「えっ?!まさか!!」」
2人はお互い気まずい顔をして、笑ってごまかした。
こうして私は晴れて、あの2人の部屋から卒業し、 しばらくは、子供部屋で安眠できるようになった。