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英語が苦手な医学生・研修医のための「これが英語で言えたらな」④現在形と進行形
前回、現在完了形が医療面接英会話で役立つという話をしました。易しい単語でも時制を上手く使うと結構微妙な表現もできるんだな、と身に染みた経験から、今回は頭痛の鑑別をちょっと脱線して現在進行形を使ったこんなテーマ。
「妊娠しています」と「おめでたです」
例えば、女性に妊娠を告げるときは、“You are pregnant.” で間違いありません。でも、ちょっと無機的。もし、外来に来た女性が妊娠したことを喜ぶことがわかっているのであれば、“You are having a baby.”と言った方が、妊娠を祝福している感じ、これから赤ちゃんが生まれてくるという期待感が伝わりそうな気がしませんか?もちろん予期せぬ妊娠の場合や、放射線科の先生に「彼女は妊娠中です(からX線をおなかにあてないで)」という場合などには "She is pregnant." と事務的に伝えた方がいいかもしれませんが、手持ちの表現を増やしたいのであれば、“You are having a baby.”ってあまりに簡単で便利だと思いませんか。現在進行形は中学で習う文法です。
応用も簡単。例えば赤ちゃんが女の子なら、
“You are having a daughter.”
でもいいし、もし不幸にして赤ちゃんに何か異常があった場合には、
“As the result of chromosome test, it’s revealed that you are having a baby with 21 trisomy. (染色体検査の結果、21トリソミーがある赤ちゃんを妊娠していることがわかりました)”
という風にも使えるはずです。このbe having a baby with ~という言い方にちょっと注目してほしいのですが、おなかの中に「赤ちゃんがいる」と胎児の存在を認めた上で、その赤ちゃんに何らかの障害が付帯している、というふうに解釈できる言い方だと思いませんか。障がい者をGoogleで翻訳するとHandicappedとか、 Disabled personと出てきます。でも最近の社会的傾向では、「障がい者」という人なんか存在しない、個人がまず存在しその人が個性として様々な生きづらさを抱えているのだ、という意味でperson with disabilityという言い方が推奨されています。
極論すれば障碍者というのは個人のハンディキャップの大きさできまるのではありません。受け入れる社会の側の寛容度との兼ね合いによって個人は障碍者にも健常者にもなりえます。例えば、足がなくて移動手段が車椅子だけという人がいても、世界中の段差がなくなって移動の不便さを本人が全く感じていないのならば足がないことは障がいではなく個性ということもできます。世の中に真っ白な健常者や真っ黒な障碍者はいないのです。いま、健常者のつもりでいる私やあなたにだって、本当はwithでくっつけたい弱みや引け目、コンプレックスがあるのではないでしょうか。
日本語にはDisabled personとperson with disabledというこの二つの言い方を区別できる言葉がありません。外国語を学ぶことは自分とは異なるものの見方を学ぶこと、自分の思慮を深くすることだと思えてきませんか?