片方だけのイヤリング (ショート)
(796字)
藍子は
アクセサリーはつけない。
ピアスの穴も開けていない。
かなりの慌てん坊、小さな指輪でもカーディガンの裾やストッキングに傷をつける。
細目のイヤリングだけが唯一のアクセサリー。
「あまり、アクセサリーが似合わないかな。」
お気に入りは、細いシルバーチェーンの木蓮に似た小花のイヤリング。
今日もお気に入りのイヤリングをつけて出かけた。
帰ってきたら、片方だけイヤリングがない。
高価なものじゃないけど大切に使ってたのに…
大切な人との約束の日につける。
一番馴染むイヤリングの木蓮さん。
そう、お守りみたいなもの。
耳たぶで静かに揺れて、たまに落ちてないか触ったりして。
触った時、一瞬相手の目が藍子の耳に移る。
癖で触るから「今日も木蓮さんだね」と覚えてくれてた。
藍子の方は、耳のイヤリングを触る時、目線が相手の靴に移る。綺麗なブリックカラーの革靴。
藍子は今日も「レンガ色さんだね」と微笑みながらつぶやく。
たったそれだけのこと…。
藍子は片方の木蓮さんの行方を考えた。
丘に行った時まであった。
バスに乗るまであった。
降りた時触った。
ん?服?ボルドーのVネックの襟元に引っかかっていた。
「『良かった』見つかって」
「レンガ色さんに合わせて、ボルドーのインナーに合わせたから」
片方だけの木蓮さん。(長期出張中)「会いたくて会えなくて…」
藍子はお守りを優しく布で拭いた。
藍色のアクセサリー入れに「ペア」でしまった。
レンガ色さんの長期出張は終わりそうにないね
出張先は天国。木蓮の涙。
「今日、あなたが行きたがってた丘に行ってきたよ。」
「いつまでも、いつまでも側にいるよ。」
「あなたは、嘘つきじゃなかったね。片方の木蓮もどってきたよ。」
木蓮のイヤリング、プレゼントしてくれた君へ
FIN
フィクションです
サブリナ