見出し画像

放伐と禅譲 (ショート)



#青ブラ文学部  I  お題  I   放伐と禅譲
山根あきらさんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。

✴︎『放伐と禅譲』(ほうばつとぜんじょう) 
古代中国において政権が交代する際の二つの主要な方法を指す。

山根あきらさんの記事より

✴︎『ほうばつ』武力によって既存の王朝を倒し新しい王朝を打ち立てること。
暴君や暗君を討伐して都から追放する行為など
✴︎『ぜんじょう』徳の高い人が平和的に定位を譲り受けること。ほとんどの場合、血縁でない有徳な者に譲るなど。

これらの言葉は現代においても、権利移譲や
リーダーシップ交代の議論においてもしばしば引用される。以上。

山根あきらさんの記事とgoo辞書より


             (本文約1900字)



        放伐と禅譲


史子は、昔から愛強い女であった。夫の浩二は老舗の酒店の息子。
史子の実家は飲食店を経営しており、浩二が酒類を配達に来た際に史子の一目惚れであった。 
浅黒く、逞しい腕、凛々しい横顔に史子は
一瞬で惹きつけられた。
史子のアプローチから交際が始まり交際に至ったが、史子の実家も地元では名高く、数店舗の飲食店を経営しており結婚には難色を示した。
史子の熱意に押し切られたかのように結婚に至った。





結婚当初から婚家に同居だった。
浩二の祖母と両親、妹の清美と6人住まい。
祖母はすでに介護が必要な状態で史子が嫁いでからますます症状がひどくなった。


浩二の母は介護に明け暮れるようになった。
一切の家事は、史子が為すがすぐに懐妊した。
体調は優れないが休む間もなく、家事に追われ
第一子を出産。女児だった。
赤児をおんぶしながら浩二と義父の代わりに店番に家事にと走り回った。
その間、義妹の清美は独身貴族のように毎夜遅く仕事か遊びかもはやわからない状況だった。


祖母を看取る頃、第二子(女児)を出産。
一層忙しい身となる。
義妹の清美は相変わらずの夜遅い帰宅。


それでも史子は浩二を愛し。
もうひとつには、義母が良く出来た人で清美が手伝わない事を史子に詫び、自分の育て方が悪かったと頭を下げたりする。
夫(義父)の事も手の上で転がすように
振る舞い見習うべき事が多い女性だった。


義母はたまに史子の手を握り「史ちゃんで良かった」と、桐箪笥の2段目の引き出しを明け「この着物は清美にはやらんからあんたの物だから」と友禅の着物を見せてくれた。




もともと義妹の清美はシャネルなどブランドのスーツが多く着物には見向きもしない。
史子は一層子育てと家事に精を出した。






下の子が10歳を迎えた頃、史子は懐妊した
3人目は男子であった。
浩二や義理の両親はたいそう喜んだ。

史子もそれなりに幸せだった。
そんな折、突然脳梗塞で義母は他界する。

義父の悲しみは見ておられず、飲酒の量が増え
店にも出られないぐらいとなった。
浩二は朝から夜遅くまで仕事漬けとなり
家に不在の事が多くなった。
急に清美が家の中で強くなり、傲慢となっていった。



店の経営状態も徐々に低迷し、浩二が清美に
「少し生活費を家に入れろ」と言い出した頃から史子に「料理がまずい」「子どもが気忙しい」「義姉さんのやりくりがまずい」など言いたい放題となった。


疲れ果てていく浩二は、清美にそれ以上言わなくなった。
また義父は義母の後を追うかのように心臓の
発作で亡くなった。

仕事が休みの清美と家内で会おうものなら女中扱いだ。
天下を取った口調であれこれ指図する。
なぜそういった扱いをされるのかわからず
最初は両親を失った悲しみからかとも思ったが。


浩二から「清美は付き合ってる相手がいて、その相手とこの酒屋を一緒に運営したい」と話しを持ちかけられていると。
お相手の現在の職種を考えると厳しいと判断してるような浩二の口ぶりだった。


清美は私を追い出したいのかも知れない。「子どもを連れて実家に帰れ」という様な態度の清美を見ていると少し複雑な気持ちとなった。史子は清美にとって完全に邪魔な人間だ。


史子は心身共にくたびれ果てていった。
シャツとパンツの組み合わせで店にいつ何時出てもいい服装だ。家に帰れば清美の理不尽な振る舞いが待っている。
たまに本当に子どもを連れ頭を下げて実家に
戻ろうかと思ったりする。





ある日、浩二から「店の状況が思わしくない。
負債を抱えているが銀行から融資が受けれない」と肩を落としながら話しを切り出された。
店は義父が、いや義母が上手く義父に接し、切り盛りしていた事を史子は肌で感じとっていた。


史子は力無く、ふらふらと仏壇に参った。
義父母の写真を見ると、やはり店を浩二と子の代で終わらせる訳にはいかないと思う。
実家に頭を下げて少しばかりの融資を願いに行こうかなどめまぐるしく策を講じる。



どれも浩二の気持ちを動かさなければならない。
清美にも事情を話さなければならない。
「どうして私が…」
策を講じるだけで決定権はない。
自分の背負っている状況に涙が溢れてきた。
手で拭いさりながら
ふと斜め後ろの桐箪笥が目に入った。


2段目の引き出しを開け、義母を想いながら友禅の着物を眺め触った…何かに当たった。
手に取ってみた、通帳だった。
かなり高額だ。中に「大変な時に遣いなさいね
史ちゃん」と優しい文章の手紙と共に。
泣き崩れた。



仏壇に手を合わせ義父母に「申し訳ありません」と頭を下げた『放伐』の清美さんには降りて頂きます。
わたくしがこの家をお守りします。
『禅譲』のごとく家業継承の実権を願い出る。


女性目線での家業継承



史子は友禅の着物を羽織り腰紐でキュッとしめ、手鏡で紅をさした。
通帳を手に取り「もう誰にも何も言わせない」と
にっこり微笑みながら、悠然と浩二のもとへ向かう史子であった。


          完





「放伐と禅譲」女性目線での家業継承を
ストーリーにしてみました
賑やかし帯・山根あきらさん作




最後までお読み頂きありがとうございました。



                 サブリナ