月下美人の咲く夜に
田中成実(たなかなるみ)は、今度結婚する事になった幸せいっぱいの友達を前に、お祝いするふりをしていた。
他の友達はどう思っているか分からないが、次こそは自分がお祝いされる位置にいると思っていたのに、未だにお祝いする側にいた。
付き合っている健(たける)とは今月で3年目になる。自分の年齢を考えると、そろそろ結婚の話が出てもいい頃だと思うが、健からのそんな素振りは全く見えない。
最近では、デートの約束をしても直前でキャンセルされることも出てきた。
二次会に行く流れとなったが、明日の朝早いからと、笑顔の奥に隠している白けきった顔が露呈する前に早々に退散してきた成実は、駅に向かって歩いていた。
すると、「幸せになれました」と言う声が聞こえてきた。
声の方を何気なく見ると、そこにはなんとも怪しげな占いの露天商と、その占い師に向かって幸せ報告をする人が目に入る。
「あなたに・・・らったあの・・・育ててると、運気・・・くなって」
雑踏に紛れてよくは聞こえなかったが、途切れ途切れ聞こえてきた言葉や二人の雰囲気から察するに、声の主はどうやら占い師からもらった何かを育てて、運気が上がったらしい。
その光景は、成実の荒んだ心を逆なでた。
「アホらしい。何育てたか分かんないけど、そんなんで運気上がるなら、みんな上がるでしょ」
小さく悪態をつきながら、足早に駅へと向かった。
翌日の仕事帰り。
最寄り駅の近くに、いつもはいない占いの露天商が目に止まった。
(あれ?あの占い師って、確か昨日の……)
昨夜は悪態をついていた成実だったが、2日連続で目にしたその占い師になんとなく運命めいたものを感じて、占いを受けてみることにした。
「あ、あのすみません。占いをお願い出来ますか?」
成実は、おずおずと占い師に声を掛けると、少し恰幅の良いその占い師は、成実の顔を見てニッコリと微笑んだ。
「いらっしゃい。何について占いますか?」
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