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沈黙の水
小さな町に伝わる奇妙な噂がある。
「井戸の水を飲むと、過去の記憶が見える」
それが本当なら、俺にとっても都合がいい。
新聞記者の俺は、ふとしたきっかけでこの町に戻ってきた。昔住んでいたことは覚えているが、それ以外の記憶は曖昧だ。取材のつもりで、噂の井戸を訪れる。
さっそく手桶で水をすくい、一口含んだ。
視界がぐらりと揺れ、目の前に鮮明な映像が広がる。
──夕暮れの井戸の前に、少女が立っている。
長い髪を揺らし、何かを話している。けれど、その言葉が理解できない。
少女は目を伏せ、くるりと背を向けた。
──すると突然、手が伸びた。
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