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闇に潜むー終わらない悪夢ー


【あらすじ】
静かに、しかし確実に広がっていく狂気の連鎖。
ある男の不可思議な体験談を聞いた者は、まるで感染症のように次々と精神を蝕まれていく。その影響は、病院、職場、学校へと及び、今や地域全体が混沌の闇に包まれつつあった。
「話を聞いてはいけない」
その言葉だけが、人々の間で不気味な警告として囁かれている。
そんな中、唯一狂気から這い上がった男がいた。精神科医の松沢。10年もの長きに渡る壮絶な精神的闘争の末、ついに正気を取り戻した彼は、狂気を広める男を追う決意を固める。狂気の連鎖を止められるのは、自分しかいない――。
街に蔓延る狂気の正体とは?そして、すべての発端となった男の目的とは?
闇に潜むのその後の話。



あの男が病院内で狂気を振りまいてから、10年が経った。
小さなきっかけから始まった狂気の連鎖は、まるで感染症のように広がり、男が住む地域全体がその狂気に飲み込まれつつあった。

すべての始まりは、一つの家庭。いたって普通の男が妻に話した不可思議な体験が狂気を呼び、今ではその影響が広範囲に及び、妻を診察した病院、男の職場、そして男からは程遠い、地域の小学校までもが、その「話」の呪縛に囚われていた。最初は男の身近なほんの数人、しかし彼らからさらに別の者へと話が伝わり、まるで伝染病のように広がり続ける。誰かがその話を聞くたび心が壊れ、発狂するか、感情のない廃人と化してしまうのだ。

「話を聞いてはいけない」

その言葉がまるで合言葉のように、人々の間で広まっていた。しかし、その禁忌に触れる好奇心を持つ者も少なくなく、それに触れた者たちは、いずれも同じ運命を辿るのが常だった。

そんな中、一人だけ狂気から這い上がった者がいた。かつて男の話を聞き、そのまま正気を失った医師である。

彼は男によって狂人にされた妻を最初に診察した医師だった。彼女がそうなった理由が、男の体験だと聞いた途端、激しくその話に興味を抱き、半ば無理やり話を聞き出した。

その途端、狂気の世界へと引きずり込まれ、その後長い間、言葉では言い表せない壮絶な精神的な闘いを経て、ついにその狂気の闇から抜け出した。

夕暮れ時、松沢は意識を取り戻した。
ぼんやりと目を開けると、オレンジ色に染まる天井が視界に入る。現実か夢かわからないまま、彼は体を起こそうとしたが――。

“ガシャン”。鋭い金属音が鳴り響き、手足に絡む拘束具が彼を現実に引き戻す。

「私は……戻ったのか。狂気から……。」

震える息を吐きながら、松沢は周囲を見回した。消毒液の匂い、鉄格子の窓。ここは間違いなく病院の病室だった。

医者は、もう一度手を動かす。やはりガシャンという金属音がして、手の可動域が制限された。その時ようやく、手足が何かに縛られている感覚が蘇ってきた。

医師は首だけ持ち上げ、自分の体の状態を確認し、自分が拘束具に縛られていることに気付いた。

その瞬間、狂気の世界が戻ったのかと、体が勝手に震えだす。

(嫌だ。あそこに戻るのはもう……。)

現実である証拠を探そうと、必死に周りを見渡す。その時、ドアが開き、看護師が様子を見にやってきた。

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