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【note版】FRB vs 日銀 カンニング投資ストラテジー
(12月21日のyoutube動画のnote版です。文言などは少し修正しています。よろしければnoteの後に動画の方もご視聴ください。)
今週のハイライトは、何といってもFRBと日銀の金融政策でした。FRBはタカ派、日銀はハト派という別々の方向性が打ち出され、為替は一気にドル高円安が進みました。市場では日銀が為替介入をするのではと噂が出ています。
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ここで、FRBのシナリオに注目します。注目点は三つで、今年のGDP見通しが上がったこと、来年の物価見通しが上がったこと、来年と再来年の利下げ回数が減ったことです。特に、来年再来年の利下げ回数が減ったことで米金利は上昇し、株や為替に大きな影響が出ています。
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今一度、FRBの利下げ見通しを見てみましょう。すると、6月から9月は3年分の利下げ回数を増やしたのに、9月から12月は今度は3年分の利下げ回数を減らしています。なんなら、6月から12月に直接つなげた方がスムーズな見通しに見えます。9月だけ、妙に悲観的に見えます。
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今年4月から9月は市場で景気悲観論が高まった時期でした。米国のエコノミックサプライズ指数は下がっており、景気指標が市場予想より下振れることが多かったです。他にも、サームルールという、景気後退を簡単な計算で予想しようというやり方が有名になったり、日銀の利上げで世界の株が崩壊してFRBは緊急利下げをするべき、との声が高まりました。
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とはいえ、こうした市場の声にFRBが振り回されたり、経済や利下げの見通しが簡単に変わるのは好ましくありません。なんならFRBはトランプにびびっていると思われているせいで、9月のFOMCでは
「トランプが当選しないようにFRBが先に利下げをした」
などの陰謀論が出る始末です。
ともあれ、FRBはまた景気に強気、利下げに慎重という今年前半の見方に戻ってきました。過去2年間を振り返ると、確かに株と金利が逆相関に動く日も多いのですが、大局的には22年10月からは10年金利は4%前後で推移する一方、株価は上昇基調が続いています。金利上昇によるバリュエーション調整は確かに逆風ですが、実体景気回復による業績改善の動きが株価を押し上げています。
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雑に言ってしまうと景気回復と物価上昇は分けて考えるべきで、金利の上げ下げだけでなく景気の良し悪しも見つつポートフォリオを構築するべきでしょう。金融環境を考える上では、景気と物価を別々の軸に、4つの次元で考えることができます。景気も物価も強いバリュー相場、景気はいいけれど物価は低いぬるま湯相場、景気も物価も悪いリセッション局面、そして、景気は悪いのに物価は高いスタグフレーションです。ここ最近は、景気はいいのに金利は下がるぬるま湯相場でしたが、FRBの方針転換により景気も物価も強いバリュー相場に移行しつつあります。ダウが10日続落の後に何とかプラスで踏みとどまったのも、バリュー相場に環境が変わったことが関係しているでしょう。
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ここでいつものカンニングをしていくと、まず企業の求人は引き続き底堅いです。前回11月のJOLTS求人は前月から反発しました。indeedが作っている週間求人を重ねると、足元で再度浮き上がっていて、企業の採用活動は底割れを回避しています。前述のサームルールが誤りになった理由もこれで、失業率が上がっても企業の求人が強いので、すぐに失業が解消されてしまう状態です。
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新規失業保険申請件数も、たまに上がるときもありますが基本的には落ち着いています。雇用の吸収能力は十分にあり、企業の求人も底堅い現状、雇用環境悪化によるリセッションは引き続き見えてきません。
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それじゃあFRB大勝利!かというと、少し不安なデータも出てきました。いつもISMのカンニングに使っている台湾の輸出受注のデータですが、実は銅価格が先行指標として機能します。足元では銅価格が前年比プラス5%と、夏ごろから伸びがピークアウトしています。半導体企業の破竹の勢いの売上拡大も、2025年はそろそろ注意した方がいいかもしれません。
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また、来年の半導体市場で気になるのが中国の動向です。ここ数年、中国は半導体生産能力を高めており、海外向けの輸出は昨年比20%以上増加したと発表しています。特に来年は中国の産業政策「中国製造2025」の最終年であり、これまで遅れていた半導体生産、特に自給率を上げるためになりふり構わない増産をかけるおそれも拭えません。その場合、レガシー半導体の分野で、半導体が供給過剰になるリスクが考えられます。悲観論を吹聴する気はありませんが、中国の産業政策により2010年代には鉄鋼業界が、2020年代には自動車業界が再編を迫られた経験がある以上、この手の話は注意したいところです。
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足元の中国景気は生産面で不安が出ています。Twitterの方で度々取り上げている北京の大気汚染改善ですが、11月末から異常なほど改善しており、生産活動が停滞している可能性があります。来年は財政支援と金融緩和により景気を吹かすとみられ、その中に半導体が含まれる展開も考えないわけにはいかないでしょう。
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このように米中景気になんとなく不安感が残る中で、インド景気が堅調を保っている点は朗報です。12月のPMI速報値は11月から改善しており、景気が腰折れする様子は見られません。加えて、国内ではタカ派で有名なインド中銀のダス総裁が退任し、新総裁が誕生しました。元財務次官からの横滑りで、利下げを望む政府の意向を汲むとみられます。そのせいかもしれませんが、最近のFRBのタカ派姿勢を受けても、海外への資金流出があまり起きていません。インド株については、総裁交代が好影響を及ぼしているようです。
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最後に日銀の意外なハト派転向です。世界の歪みを一身に背負った日本円は独歩安となりました。記者会見では米国経済の不確実性や春闘の結果待ちが金利据え置きの理由とされましたが、現在は自動車産業が苦境に立たされていることや、FRBが来年まさかの利上げに転じる可能性も否定しきれない点なども、利上げを見送った背景なのではと思います。仮に利上げをして金融市場が混乱すれば、国内の自動車関連への逆風はますます高まったかもしれません。万が一来年FRBに対抗して利上げを行う場合、発射台が上がる分、利上げの苦しみは一段と大きくなります。FRBの利下げが減速している現状は日銀にとって悪夢の入り口に近い状況ですが、下手に動いてショックを引き起こすより、目に見える範囲で副作用を受け入れた、と私は解釈しています。とりあえず、来年のトランプ政権の出方と、3月から4月の日本の春闘の結果を待つほかないでしょう。
今回は以上です。ありがとうございました。
※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨する意図はありません。