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ファンタジー短編小説

南州丸7


北の夜明けは早い

秋のはじまりであった

崎も恐も なぜか見送りに来ていた

うっすらと なみだぐみ

なにも話そうと しない

恋ごころ 断ち切るように

わかれの汽笛を鳴らす

最初に三つぼぉ〜ぼぉ〜ぼぉ〜 短く

そしてもうひとつ港を出て

長〜く ぼぉ〜とドラが啼く


面舵いっぱい

大間崎をまわり 母港油津へ

果てない 遠い旅である

風間浦へさしかかる頃

突然 舵が 舵がひとりでに

大間港へ帰ろうとして 動かせません

どうしたんだ快

豪は 大声で 尋ねる

舵が 舵が ひとりでに

大間港へ帰ろうとして 

崎と恐に 舵が奪われました

馬鹿やろう

豪は叫んで 目が覚めた


起きなさい

いつまで 寝ちょっと

早く 起きなさい

お天と様が 真上におると

百合子の声がする

台風が来るから 漁には行かれんいうて

あんたら ぐうたら兄弟

昼間から 芋焼酎ば

しこたまのんで 眠ってしもうたわいが

まっこちどげんもこげんもない

ぼっけもんたい


覚えとらんとね

どうしようもなか がんたれが

百合子は 口は悪いが

ほんとは 優しい 豪の嫁である

そてつのまあるい目が

くりくりと 軽べつをくれる

そてつは 豪の ひとり娘である

快は陰気で 女がよりつかない

はよう鮪ば 取りに行かんね

台風がごつごつ つれてきよるよ

日向灘が 待っちょっと

<続く>


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