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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー2


物心つくと 百合は

父のことを 尋ねることはなかった

休みの日に 母が習っていた

阿波踊りを見学して

見よう見まねで

一緒に踊るように なった

大人顔負けの 見事な手捌きに

ひょっとこのような 足おくりに

みんなが おどろいた


高校生になった頃

洲本の漁師達が 気づかいながら

父の話を 少しずつ してくれるようになった

母港洲本津名港

南風丸 父の船である

明石海峡 北廻り

小豆島の 駆け上がりで

鯛を釣るのが 日課だった

みごとな鯛を

一本釣りで 仕留める

名人だった


ぎらぎらと 照りつける

葉月の太陽

まさか台風が近づいているとも知らず

漁に励み 大漁旗を立て

南廻り鳴門を 帰路に選んだ


あんな凄腕の漁師が

挨拶替りの台風に 負けるはずがない

あいつの好きだった 

オホーツクに

きっと突っ走ったんだろうぜ

洲本の漁師は 目を腫らし 夢を語る

母も同じことを 言っていた


卒業が近づいてきた

百合は料理の勉強と

阿波踊りに 夢中になって

めきめきと 腕を上げてゆく

もうすぐ卒業だ

黙って 秘密にして

逢いに 行くぞ 探しに行くぞ

母を欺き 強い心でいた

<続く>



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