ファンタジー短編小説
南州丸5
空|《がら》で返るな 女房泣かす
お腹すかした 子供を泣かす
仕留めて見せる でっかいエビス
待っていてくれ 大漁の
旗をなびかせ 帰港節
取ったら 鮪はエビス様
外せば家族は 一文無しよ
恐るものは なにもない
守ってくれるぜ 恐山
そんなに うまく行くもんじゃない
気にするな あしたがあるさ
海長は どんな時にも 笑っている
昨日も今日も
空|《がら》で大間港へ 着いた
おかえり おかえり
黄色い声がする
崎と恐が並んで 待っていた
私服にほんのりと うす化粧
自衛官の制服と違い
見違える程 ふたりは 美しかった
豪も 快も 記憶はたしかだと思っていたが
時折り思い出せない事があり
俺達は 誰なんだろう
と話したりする日が あった
気を取り直し
とにかく鮪を取って 技を磨いて
油津へ 帰ろう
ふたりで決めて 漫|《そぞ》ろ漁に出る 日々だった
夢に見た その日がやってきた
そろそろひとり立ちしなさい
海長に言われて 1週間が過ぎた
南州丸は 竜飛崎の沖にいた
潮の流れは 速い
突然 海猫|《ごめ》が騒ぎ始めた
風上に重舵を取り 仕掛けを流す
鮪船がぞくぞくと集まってくる
豪と快は真ん中を取り 譲らない
海は戦場だ 引いたら負けだ
海長の教えを 守っている
<続く>
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