風樹の嘆
親孝行したい時 親がいない
ここは親不孝通り
路地の行き止まり
おたふくと言う おでん屋があった
四角四面の この世の中を
いやと出てゆく 湯気もある
よってらっしゃい おいしいよ
おたふくとおばこの姉妹は
秋田なまりで よく唄う
こころに沁みる 大根の味がまたいい
赤ちょうちん
行き止まりの細い路地に
裏町の裏町と 書かれた
赤ちょうちんが あった
ひとりですけど いいですか
名前にひかれて のれんをくぐる
初めてのお客さんには
おつまみをひとつ ごちそうします
なんでもどうぞ マスターの声に
一番やすい 百円のモロキュウを 頼んだ
美味しい ふるさとの味噌だった
ほろ酔い 帰って 歌を作った
裏町の裏町
裏町の また裏町に
わたしの通う 店がある
お好きなものを どうぞと言えば
一番安い おつまみを
頼んでわたしに 会釈する
物書きは いつでも
自分の都合のいいように
できるので しあわせだ
縄のれん 唄村上幸子・鳥羽一郎
ひょろり よろける お前の肩を
しっかりしろよと 抱き上げりゃ
すまぬ すまぬと 千鳥足
俺もお前も 夢を拾って また落とし
男同士の 縄のれん
横丁
恋文横丁 おもいで横丁
みろく横丁 すずなり横丁
ぶらくり横丁 ハーモニカ横丁
恋人によく似た ママがいる
苦労をかけた 母に似ている女将がいる
泣かせた女の 後姿に
おくれ毛に こころ揺れる そんな客もいる
わざと落として 三毛猫の
ノラと たわむれ のむもよし
ジプシーきぬ
誰が名付けたの ジプシーきぬ
ふらりと 港町にきて
丸窓に 片肘ついて
シャンパン片手に くちずさむ シャンソン
恋唄も わかれ唄も
すべて聞く人の こころに沁みる
夜更けにふらりと 去ってゆく
名を呼んでみる
風の中を 追ってみる
それから三日もやってこない きぬ
バーテンダー ルリ
ルリは 海の瑠璃色が好きだから ルリ
シャイなバーテンダー
ルリ オールドファッションド
マドロス達が ウィンクする
シェーカーを振る 踊りながら
強く激しく 時に床しく
ルリ ネグローニ
イタリア帰りの マドロスは
イカした 恋泥棒
惚れるなよ ルリ