ファンタジー短編小説3
わたしの父は 大間の漁師です
海道 長一郎
人呼んで 海長 漁労長を務めています
わたくし崎は 大間崎の崎で
わたくし恐|《おそれ》は恐山の恐です
恐くて 男の人は 近寄りません
とても安全です
と妹の恐は はにかみ笑う
南州丸は牽引されて
先に大間港に着いていた
豪と快は むつ市の病院で
検査休養をして
遅れて 大間へと 急いだ
大間道から大畑へ
風間浦から大畑へ
風間裏から大間崎の夏路は
穏やかで 聞いていた
荒れ狂う風雪の冬の海と まるで違い
ふるさと日南海岸のようであった
海長は 目を細め
優しく二人を 迎えてくれた
ごつごつとした さつまの男と違い
細身で背の高い
紳士である
この人があの冬の津軽海峡へ
平然と船を出し
一本釣りの名人とは とても思えない
いやぁ人の話は エビスで
海長は 灼けた顔で
にっこりと 笑った
エビスとは 鮪|《まぐろ》のことで
でかいと いうことか まっ黒という洒落か
給油管が外れているだけで
問題ないさ なんもなんも
ともべりは補強しておいた
前よりも ずっと頑丈だ
それから油津漁協に 電話しておいた
暫く こっちさいて じき帰ると
そしたら鮪の取り方 教えといて下さいとな
ワッハッハ
海長は 男の中の
男のようだ