見出し画像

『アポトーシスの誘惑』感想

最初に

絶対に、双子のノベルを読んでから読むべきだと思いました。リリース半年が経過して、お恥ずかしい話ですが私自身が未だに半分くらいのキャラの区長ノベルしか読めておらず、今回もあらすじを読んで両角さん…?アスタロト…?となって危機感を持ち、慌てて読んだわけで。実際読んでみて、これは区長ノベル読了済みでないと本来の良さが半減どころじゃないと感じたのでまだ『アポトーシスの誘惑』を読んでいないという方は必ず読んでください。区長ノベルを読まずにイベストを読んでしまったという方、元気を出してください。

さて、とんでもない重さのストーリーでしたね…
早速感想を書いていきたいのですが、私もよくわからなかったところが多くこうして書きながら整理をしていこうとも思っています。
まずは、作中に何度も出てくるキーワードを拾ってから、本編の感想に行こうと思います。

キーワード

・無尽蔵プチプチ

序盤から糖衣がよくいじっているものです。サブリミナルのように、プチプチと、何度も糖衣がこれをいじっている描写が出てきます。描写だけでなく、音だけの時もあります。最初は主任にも触らせて、最後の方では琉衣にも触らせます。これがただのストレス解消グッズとして描かれているのであれば、最初の薄気味悪い物語(最後にこの物語の正体がわかりますね)の後に、真っ暗な画面に限りなく黒に近いグレーで「プチプチ…」なんて効果音書きません。

マジで見えない

しかも、このプチプチの前に、疎らな拍手のような音も聞こえます。だれの拍手なんだろう…?
本当にめでたしなのかなぁ、と呟いているのは多分糖衣ですが、この話をどのタイミングで、なぜ知ったのか。こんな話、誰が読んでもめでたくなんかないです。つまり「めでたい」という感情を抱くのは物語の中で馬を殺した存在になります。オシシャ様(真)を殺したアスタロトが交換日記で糖衣に語った説が濃厚かな、と最初に考えたのですが、オシシャ様はあの可哀想な夫婦の祟り神であり、アスタロトはそれを喰らった存在であるので馬を残虐な方法で殺した娘の父ではないので、「めでたい」とは必ずしも考えるとは限りません。(じゃあやっぱりなんなんだろうね…)
話が逸れましたが、この緩衝材をプチプチと潰していく行為自体に、色んな意味が乗せられています。

・潰す→崩壊
 =アスタロトによる糖衣の内側からの侵食が進む様子。緩衝材の丸い膨らみを細胞に見立てれば、「アポトーシス」の伏線にも感じられます。
・潰す(物理)
 =これはストーリー内でも語られていましたが、糖衣は琉衣を守るために人知れず怪異を"プチプチ"してます。恐ろしい子。しかも「兄様を守らなきゃ!」のような純粋な動機は建前で怪異に向かって「ライバルだね」、と。あの時の暗転プチプチ音、嫌な予感当たってしまった…兄様を待つ間に持ってきた緩衝材をプチプチしてるだけだったらよかったのに…
糖衣のような可愛くて清純な子の内側に眠る明確な殺意を感じて、背筋が冷えました。

他にもこんな意味があるんじゃないか?というのがあればこっそり教えて欲しいです。すごく助かります。
そもそも魂の限りが近いとされる糖衣に「無尽蔵」なんて言葉の飾り付きのプチプチを持たせるのが趣味悪いですね。(?)

・糖衣の好き嫌い

まずニンニク。なんでこんなにやたらニンニクが出るの…?と思ったけど、そういえば青森ってニンニクが有名でしたね…
最初からあまり食欲がない糖衣。子タろからもらったニンニクは耐えきれず吐いてしまう描写があるほど、ニンニクが苦手な様子。でも、糖衣の好物も苦手な物も熟知しているはずの琉衣が最初にニンニク料理を自分のお裾分けではなく、糖衣のために注文します。これらの描写から、糖衣がニンニクを苦手になったのは後発的なものだとわかります。食の好みにもアスタロトの侵食が影響されてくるのはとても辛いことで、胸が痛みますね。たとえそれが自分の元々大好きなものが嫌いになるようなものだったら…泣いちゃうかも。血の滴る肝が好きだったりニンニクが嫌いだったり…マジで悪魔の類なんだね、アスタロト…
次に、レバーペースト。こちらはアスタロトの好物。糖衣がアスタロトの影響を受けて後発的に好きになったものです。レバーペーストの味に対して交換日記の中で好ましい反応をするアスタロトはちょっと可愛かったですが、悪夢の中でレバーペーストを食べる糖衣の咀嚼音のぺちゃ、という音は生々しく気味が悪く書かれていました。歯がボロボロ朽ちていくところはエグかったですね。その夢から覚めた後、現実で起きていたであろうアスタロトがレバーペーストを食べていたために手もシーツもベトベトになっていて、夢が夢じゃなかったかのような気持ちの悪さに必死に手を洗う姿は痛々しかったです。知らない自分の姿に恐怖を感じている描写が本当にリアルでした。レバーペーストといえば琉衣が糖衣のためにレバーペーストを包むために用意したのが「無尽蔵プチプチ」の正体でした。琉衣は間接的に大嫌いなアスタロトのためにレバーペーストを持ち込んできたという事実が少し辛いですね。
最後に、レーズンバターサンド。区ノベを読んだ日にそのままイベストを読みに行ったのでどっちで知った内容かわからなくなってるんだけど、儀式が終わって倒れるように眠ってしまった糖衣が目覚めた時に琉衣が置いてくれていたレーズンバターサンドは糖衣にとって大切な思い出もある好物だったはずです。主任にもらった時、食欲の無さに断ったレーズンバターサンド。そして最後に糖衣が食べていたのはレーズンバターサンドではなく、アップルバターサンドでした。青森の名産だからだろうという見方もあると思いますが、態々他のお菓子ではなく、バターサンドを選んだところに赤いものが好物のアスタロトの侵食と、違和感と、奇妙なストーリーの落ちへの浮遊感を感じます。

・オコジョ

青森に来て、糖衣たちが出会う不思議な可愛い生き物。こいつも豹変するのか…と身構えていたら、夜班の前に何度か現れては糖衣の方を見ているだけ。
最後に琉衣を窮地から救ってくれたのも、オコジョの形をした何かでした。オシシャ様のもう片方ではないかと思うのですが、最後の終わり方的にただの守神ではなさそうですが…
パッと調べたところ、オコジョは夏毛は茶色く、冬毛で真っ白に変化するようです。元々琉衣と同じアッシュカラーだったのに、アスタロトと同化して髪の毛が白くなった糖衣に重なる部分があるように思えます。また、ルネサンス期には冬毛のオコジョは純白の毛を汚されるより死を選ぶなんて伝説があったために純潔の象徴とされてたりとか。兄様の中で「いい子」でありたかった糖衣に重なる気がしました。

本編感想

フィーチャーイベントというか、もう必修科目にした方がいい…他の班はツアーのコンセプトを探しながら個々の成長を描いていたのに、今回のはほぼ糖衣の生きることへの姿勢の変化でした。でもマジで区ノベを読んでから読むべきです。本当に。
まるで区長ノベルのように、紙の上に明朝体で物語が綴られ始まるストーリーの演出に驚きました。あれ?間違えて区ノベ開いちゃった?と一度中断したくらいです。のっけから馬と娘の異種間恋愛の話とその残酷な末路を見させられてこれ、グロいのとか無理な人大丈夫?って感じ。この物語って一体なんなの?っていうのが最後にわかるのは面白い構成だと思いました。私はアスタロトに殺されたのは勝手に馬の方だと解釈して、生前は嫁の父に足を吊るされ首を切り落とされ、死後は(アスタロトからもしかしたら娘を庇ったのではないでしょうか…)おそらく体を裂かれて肝臓などの内臓を喰らい尽くされた馬の旦那が本当に気の毒で。その嫁の恨みといったらきっと計り知れないものになっているかもしれません。そう考えたら、オシシャ様の片神のオコジョが見ていたのは糖衣ではなくアスタロトなのかもしれないな、と。
怪異が出てくるところだけ本当に呪◯廻戦でした。クリーチャーみたいなアメリカンな色の怪異にちょっと笑っちゃいました。両角さんが助けに来てくれたのもよかったけどここだけでしたね。もう少し助けに来てくれるかと思ってました。それはそうと、両角さんへの嫉妬の仕方が糖衣めっちゃ重い女そのものでちょっと怖かったです。やっぱり糖衣、静かな狂気を感じる。
琉衣の責任感が強すぎて全部自分で抱え込もうとするのを見ていて、雪にハマった車をみんなで動かしたことを例にあげながら頼って欲しいと声をかけるのが凪で、本当に嬉しかったです。(凪琉衣好きなので実は) 琉衣と糖衣を2人にする時も最後まで俺たちは…と歩み寄ろうとする姿が、本当に凪は夜班やHAMAツアーズのみんなのことを『家族』のように思っているんだなってジンとしました。
凍る滝が時間が止まったように見えること、これと自分自身に起こっている変化を恐れる糖衣の兄様がそばにいて自分のことだけを考えてくれている時間がずっと続けばいいのに、このまま時間が止まっちゃえばいいのに、って願望が掛け合わされてるのも、こういうの大好きだから嬉しかったです。
最後にもう一回琉衣ときた時の糖衣、もしかしてあそこで死のうとしてました…?結構今回曖昧な表現多かったので読み取るのに時間がかかりました。一度読んだだけでは、糖衣は突然何を言い出すんだ??って思ってたけどあそこで琉衣と心中しようとしてたのなら以下の言動に辻褄が合います。

(『おそろい』じゃなくても、
同じ歩幅のまま、まっとうする世界もあったのかな)

『アポトーシスの誘惑』9話

(それなら、そう願える元の僕のまま、時間を止めて、凍らせてしまおう)

『アポトーシスの誘惑』9話

(みんなが僕たちを忘れた頃に、
こっそり溶けて海に消えてしまおう……)

『アポトーシスの誘惑』9話

ここでエグいのは糖衣が"琉衣に側にいて欲しい"という破滅願望に琉衣を自然に巻き込んでいることで、糖衣って琉衣にこんな辛い思いをしてほしくなかったから儀式の時に自分は糖衣だって言わなかったって言ってたのに、自分の破滅願望には巻き込むんだ…っていう…独占欲が強すぎる…
糖衣がアスタロトに教えてもらった琉衣にずっと自分を見て欲しい方法は、多分「同化しきってないまだ綺麗な糖衣であるままの姿で一緒に死んじゃえばいい」だと思うんです。(ああ…オコジョの伝説が…)
でも、琉衣は、糖衣が必死で隠してきた同化して琉衣が嫌いなアスタロトに近くなってきた自分のことを知っていた。糖衣がそれを意識してたのは居酒屋のシーンからあったんだなって今考えつきました。琉衣は雪を踏むの、雪を踏んだら土と混ざって真っ白が汚い色に変わるから嫌だと言ってたのを思い出していたの、今思うと糖衣は雪を自分に重ねてたんですね…本当に、エイトリは背景や物にキャラの心情を重ねるのよくやるんだな…夏目漱石のこころでそれをよく見受けていて私もその表現技法好きなので…嬉しいです。(白光の仕打ちは嬉しくない)
それで、琉衣は全部知った上で、全ての糖衣を受け入れると言いました。例え誰かが許せない糖衣になったとしても全部許すし全部付き合う、と。
糖衣は、そこで初めて激しい罪悪感に駆られます。

「だめだ……、許せないよ。
僕は……っ、僕と琉衣を殺す僕を許せない。」

『アポトーシスの誘惑』9話

決定的ですね…心中しようとしてたことが。
私は一周目でこれどういうこと…?って思ってたけど、わかると余計胸に来ます。琉衣は全てに向き合って、糖衣が自分を巻き添えに死のうとしていたことさえ許し、それを知っていたことを打ち明けながらそれでも糖衣がそうしたいっていうなら付き合うって言ったんです。そしてここで初めて、糖衣が兄様ではなく、"同等"の存在として"琉衣"と呼ぶのが印象的でした。ずっと神格化していた琉衣を、やっと同じ目線で見たんです。

「お前をずっと、愛(ゆる)してるよ」

とんでもないーーーーーー愛してるよと書いてゆるしてるよと読む。こんなこと、重すぎる。ずっと糖衣の矢印のがでかいって思ってたんですけど、琉衣も本当に重いんですね…こんなこと言われたらさ、もう一生一緒に生きるしかなくなるから。ほんとに。
糖衣の考え方が、「側にいて欲しい」ではなく、「側にいたい」という自分主体の生への渇望に変わる瞬間が本当にアツくて。なんでこんなにストーリーいいんですか????心臓からため息出ます本当に。
そして糖衣はあーちゃまと何故か三途の川みたいなとこで会話をします。死ぬのをやめ、生きることにする。同化をやめてほしい、と。拳を交える、と。(!?)急にそんな、心の中の空間で自分の中のバケモノとたたかうなんて、両面宿儺と虎杖悠仁みたいなことある⁉︎
なんとかこの後生還してちゃちゃっとツアー成功してますけど、アスタロトとどうなったのか、イマイチわからなくて。ここで手加減して吾輩の負けだ、なんて情に厚いわけないので。
そしてタイトル回収です。「壊死する前にアポトーシスさせた」と。どゆことーー?!?(IQの壊死)
私も誤解してたけど、形態変化とか進化するためにいらない物を取捨選択するみたいな感じなんですかね??子タろがすごいわかりやすく説明してくれたけど、肝心なアスタロトは何も答えてくれませんでした。アスタロトに何かあったのでしょうか。
壊死、と言ってましたが、それは凍傷のことだったのでしょうか。それとも、オシシャ様の片神からの攻撃だったり…とか。
最後に一瞬映った怪文書の「私は許さない」の文字。十中八九オシシャ様、憑いてきちゃってますね…アスタロト、どうなる!?
穏やかでは終わらなくて、でも2人はなんか穏やかに終わってて。穏やかじゃないままオタクは置き去りにされています。途中までいい感じに書いていたのに結局怪文書になってしまいました。こんな考察もできるんじゃないか!?みたいなのあったら気軽にうぇぶぼ下さい。よろしくお願いします。
ご精読、ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!