星と鳥と風16~鳥とビンギ

信じるという事は生きるということか
目に見えない事実に時が重なり
紡ぎ出す光なのか
どちらにせよ
私は
【ビンギ】
という存在を信じ
今この瞬間
灯火を灯している
真っ暗闇の海の上で
大事な人が
道に迷わないように
そのまたとない
命を燃やして
道を示す
不器用な男の
不器用なりの愛と
小さくとも大きなその夢に
風が応えて
時空を超える

2003年、5月頃、彼女は友人達と、
【とあるお祭り】
に参加していた。

そこであった【ジャンケン大会】での景品が
まさかの【イヌ】だった。

参加者も100人超えという超狭き門の中
1人勝ち残った彼女は、愛でたく、これから先の人生を共に、長く、過ごしていく事になるパートナーとの出逢いを果たした。

その子犬を抱き抱えた時の【心臓の鼓動】が印象的だった事もあり、ジャマイカのラスタファリ達の、【heart beatな音楽】である【Nyabinghi】から取って、【ビンギ】と名付けられた。
ビンギは雌の犬で、【古代犬】の名残を残した後ろ足の【5本指】と、胸の【鳥の形】をした白い毛が印象的だった。

彼女とビンギは
それから20年という歳月を深く共に過ごす事となるのだが
【彼女たち】
の歩んできたその道のりを
私がここで説明するのは
あまりにも浅はかであると同時に
計り知れないので、割愛させて頂く。

私が彼女に会った時にはビンギは老犬だった。
目も耳も足も不自由になっていたビンギだが
彼女は、特殊な【何か】を持ち合わせていた。
きっとその鋭く特殊な感覚で
これまでの人生で起こった出来事達を嗅ぎ分けていたに違いない。

それくらいビンギには、まるで全てを理解しているかのような【落ち着き】と【オーラ】があった。

ビンギには首輪など必要無かった。
凛として、時に自立した
【1人のレディのようでもあった】
彼女がLiveになると、寝ていても立ち上がり
当たり前のようにステージに上がり
横に並んだ。

その姿が今でも私の心に深く刻まれている。
そう思っているのは私だけでもないはずだ。

そんなビンギだが、丁度一年半程前に
いよいよその命を全うしようとしていた。
歳にして19歳なので
人間で言う所の100歳をいうに超えていた。

19年も寄り添ったパートナーの【死】は
今考えると、彼女にとっては耐え難い【試練】だったように思う。

粛粛と、動けなくなってしまったビンギを見守る彼女の横にただただ存在する事がやっとな私であったが

急に

【脳に落雷のようなもの】
が走った。

次の瞬間に、私の頭の中に、膨大な写真が流れ込んできた。

それは
「ビンギが見てきた彼女の全て】
だったのだろう。

私の知らない
【彼女】のまだまだ若い時代の写真。
Liveをしている姿や
仲間や家族と過ごしている写真。
浜辺の月明かりの下で
当時付き合っていた彼氏と
手を繋ぎ歩いている所なんかまで
話したらキリが無いほど
膨大で果てしないビンギの
【記憶】達が
走馬灯のように私の脳に入り込んで

そして【風】のように過ぎ去っていった。

そのどれもが彼女らしい
満点の笑みだった。

「この笑顔が私は大好きなの、だから笑ってって伝えて」

今度は脳に声がこだました。
一瞬私は誰の声か分からなかったが、その声が
【ビンギだと理解するのにもそれほど時間はかからなかった】
続けて

「私の肉体はもう終わろうとしているけど、私の魂は彼女の中で生き続ける。そんなに悲しむ事ではないわ。形が変わるだけで…」

そう言い放って、声は途切れた。

美しいその声と
その瞬間に起こった紛れもない
【不思議な事実】
に、私はしばしの間呆然としていた。
そしてその事実を本人に
【伝えるべきか、非常に悩んだ】
もし、これが私のただの妄想ならば
伝えるべきではない。

今起こった事は私にとっては紛れもない
【現実】
だった。

【伝えよう】

私は意を決して、今起こった事を伝えた。
彼女は涙でクシャクシャになった顔を一瞬満面の笑顔に変えた後に、私の胸の中で
子供のように泣きじゃくった。

彼女の体と涙は熱く迸っていた

「これで良かったのか?」
と問う私に

「ありがとう」
と【風】が応えた。

つづく


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