星と鳥と風18~星のパラレル
【そして私は江戸時代にいた】
目の前には身長180cm程のすらっとしていて男前な男が立っていた。
髷と紺色の着物、腰に刺している日本刀。
裾からのびた筋肉質な二の腕は、過去に鋭利な刃物で切られたような傷が無数に見える。
そして
その男には嫁がいた。
だが、男はその嫁を殴ったり
蹴飛ばしたり
悪態をついては憂さ晴らしに
外に快楽を求めて出掛けるような男だった。
酒を飲み
女を抱き
博打を打って
【負けた】
と
荒ぶっては
また嫁に暴力を働いた。
一方で嫁は
殴られて痛む身体を庇いながらも
毎日そんな旦那の為に、炊事洗濯掃除をこなした。
男は、それを寝転がって眺めては
「つまらん女だ」
と
吐き捨てて
また外に快楽を求めた
しかし嫁はそんな旦那の事を愛していた
そして、どんな形でも2人が共にいる事の喜びを
胸から離さずにいた。
家には芝犬のようなイヌが一匹いて
嫁はそのイヌの事も本当に大事にしていた。
だが、イヌも嫁の事を理解していた。
男が暴力を振るう際には、イヌも立ち向かって嫁を守ろうとした。
そのせいで男に蹴飛ばされ、左足が不自由になってしまっていた。
【そんな日々が続いた】
ある日、男は野原で花を幾つか頂戴し、町でお団子を3つ買って、珍しく上機嫌で家に帰った。
「おい!戻ったぞ!」
「…」
(嫁の返事が無い)
「戻ったぞというておろうが!」
短気な男は、取ってきた小さな花束達を地面に叩きつけて、花は玄関に飛び散った。
怒り心頭な男は、何かを叩っ切る勢いで家の中に入ったが、嫁の姿がどこにも見当たらない。
男は何かを悟ったのか、イライラしながらも、狂ったように嫁を探した。
「怒りで曇ったその目には
愛する者の姿すら見えぬものか
愚か者め」
【何者かの声が聞こえた】
そして男は
先程投げつけた花束のすぐ横に倒れている嫁をようやく見つけた。
嫁の身体は冷たく冷え切って、右手には【鈴】を固く握りしめていた。
【以前町屋敷で男が嫁の為に買ってきた花柄の鈴】
男はやってきた自分の行いに武者震いがした。
そしてそっと嫁に近づいて
「おい」
と言うのが精一杯だった。
馬鹿な男だ
馬鹿でどうしようもない
そんな男だが
男も嫁を愛していた。
というより
【やっと愛していた事に気がついた】
男は嫁を胸に抱いて、わんわん泣いた。
【固く冷たくなった嫁の身体が骨身に沁みた】
目が醒めると私は仕事中に、その場にひざまづいていた。
そして稲妻のように駆け巡った【ソレの意味】が、心に津波のように押し寄せてきて、号泣しながら
勝手に口から言葉が漏れた。
*
「そうだった、私はあなたを守る為に産まれてきたのだった。
そんな大事な事も忘れて、また間違いを起こすところだった。ごめん。本当にごめん」
そう口からことばが溢れて
それから私は3時間も泣き続けた。
しまいには社長にその現場を目撃されて
「大丈夫か⁈」
と肩を掴まれながら心配されたが
私は構わず大泣きした。
これが、世で言われる【パラレルワールド】ってやつなのかは分からないが、私達は確かにその時代にも存在していて、色々なきっかけを元にそこに迷い込んだ。
事実は小説よりも奇なり
人生とは時に、本当に不思議なものですね。