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精神の熟練度が問われる競技、マラソン

先日、マラソンが趣味の夫の勧めで高橋尚子選手のドキュメンタリーを見た。

国際オリンピック委員会作成の一時間あまりのドキュメンタリーで、高橋選手を中心にマラソン競技の歴史を追う。
一部、ナレーションやインタビューなど英語だが、高橋選手や小出監督、その周りのコーチ陣や、当時の記者などのインタビューなど日本語だけでも十分に理解できるはずだ。

ドキュメンタリーは「ランナーはマラソンの最中、何を考えているか。どんなマントラを唱えているか」という問いから始まる。
マントラはお経のことかと思ったら、日本語では真言というそうだ。
「気持ちを落ち着かせるために唱える短い言葉」だそう。

私も趣味ランナーの一人である。
マラソンなんて私にとっては夢のまた夢で、最長で10キロまでしか走ったことがないし、これからも距離を伸ばせるかどうかわからない。

私は前職でアキレス腱の腱鞘炎を患ったが、私が走れないと思う理由は痛みよりも、メンタル的な要因が遥かに多い。
ただ走るという行為は修行のようだ。

暑さの懸念で北海道で開催された東京五輪のマラソンは皮肉にも大変気温が高く、ランナーたちにとって苦しい42.195kmとなった。
銅メダルを獲得したアメリカのモリ―・セイデル選手は競技後「マラソンは自分との闘いです。頭は苦しい、止めたいと警報を鳴らしていました」といった趣旨のことを語った。
たった数キロ趣味で走る私も「本当それ!」と思ったものだ。

このドキュメンタリーでは、高橋選手が小出監督の弟子になった経緯も紹介されている。
大学卒業後の進路として複数の実業団からオファーを受けていたのに、それを全部断ってから小出監督の元に飛び込みで弟子入りを頼みに行ったそうだ。
しかも断られたにも関わらず、小出監督のメソッドが勉強したいので実費でいいので合宿に参加させて下さい、と申し出た。

そもそも実業団からオファーが来るような選手なので速かったのは当然だが、神童と言われるような選手ではなかったことがわかる。
こうして、人並み外れたことを成し遂げる選手も敷かれたレールを腕力で切り替えるような大胆な選択が必要な時があったのだ。

多くの欧米のマラソン選手はトレーニングでは長く走って35km、それを試合前に数回こなし、準備するという。
高橋選手のメニューは40~80kmをほぼ毎日、月間にすると1200km以上走っていたという記事を見つけた。とんでもない距離である。

監督も高橋選手の家族も「あの子は走るのが何よりも好きなんです」と語る。
オリンピックで金メダルを獲得した後も「終わってしまったのが少し淋しい」と語った。これだれ熾烈なトレーニングをしながら、こんなことが言えてしまう人がいるだろうか。
オリンピックの翌日もジョギングしたという事実には驚きを隠せない。

最近読んだ本にこんな記述があった。

 最適な仕事を選ぶ基準とは、「得意」か「好き」のどちらかです(もちろん好きで得意なことができれば一番よいのはいうまでもありませんが)。
 「得意」とは絶対優位のこと。誰よりもよくできること、日本一、世界一の水準に達しているようなことです。(略)
 あなたの中で一番「好き」だと感じていること、それが比較優位です。 

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」安藤寿康

高橋選手の場合はこの絶対優位と比較優位をばっちりマッチさせて最速の称号を手に入れたんだなと思う。
ちなみにこの本は行動遺伝学の観点から現在の教育システム、子育てに切り込む良書。特に本の後半がとても興味深く、一気に読了してしまった。

影響されやすい私は、このドキュメンタリーのおかげでモチベーションが上がり、5km走の自己ベストを更新できることが出来た。
ありがとう、高橋尚子選手。
現役を引退しても尚、社会に影響を与え続ける素晴らしいアスリートだ。

6月20日 火曜日

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