リョナ
とある一本の道。
昼間だが不自然にカラスが鳴き声を発している。
遥はお気に入りのトートバックに入った課題を見た。
ため息をつきながら家路につく午後一時。
何も考えずにぼーっとしながら歩いていると、後ろから走る音が聞こえた。
サラリーマンかランニングをしている人の音だろうと思い、特に何も考えずに歩き続ける。
しかし、次の瞬間背中に冷たい感覚がした。
汗がどっと出る。
口の中が血の味がしたとき、意識を失った。
「これから頑張ろうね。」
母親の声がする。
「お前なら大丈夫だ。」
父親の声。
二人は無理やり笑顔を作り遥に話しかける。
「あの子これからどうすればいいの。」
「ゆっくりでいい。見守ろう。」
夜中に母親と父親が話している声が聞こえる。
いやだ。
この夢は見たくない。
そう思ったと同時に、まぶたに光が差し込む。
無理やり目を開け、目が痛いほど白い天井が目に入り込む。
右手には点滴の管で、左手は自由だった。
喉の渇きを覚え、左のベットの脇にあるサイドチェストの上においてあった水差しを取ろうとし左手を必死に伸ばすが手に力が入らない。
声を出そうとするが口にも力が入らなく、何もできない状態だった。
唯一できることは瞳をグルングルンと部屋の中を見渡すことだけだった。
足にも力が入らず、胴体にも力が入らない。
考えた結果、起き上がることは無理だと遥は分かった。
遥はこの状況に異常に慣れてしまい、天井にシミがないかを探すようになってしまった。
暇だ。
再び眠りにつこうとしたとき、扉が開く音がした。
「目が覚めた。」
目に入ってきた少女はとても可愛らしい容姿をしていた。
「点滴は、良かった。順調だね。」
花が咲いたように満面の笑みをする少女。
「大丈夫。まだ痛い。」
少女が遥に問いかける。
遥は何も言うことができない。
なぜなら力が入らないから。
口をパクパクする魚のようにするしかなかなった。
声を発声しようと遥はなんとか頑張るが、声が出せない。
「もしかして喉乾いたかな。まってね。」
少女はサイドチェストの上の水差しを取り、遥の口に水を入れる。
ごくごくと遥は水を飲む。
満足した遥は少女を見つめる。
遥は少女のことについて知らない。
不思議そうに少女のことを見ると、少女は遥に口づけをした。
「大丈夫。もしかして、私のこと忘れちゃった。」
そう問いかける少女。
遥はゆっくりとまばたきをする。
「そうだよね。遥は名前覚えるの苦手だもんね。」
少女は遥の頬を撫でながら、もう一度遥に口づけをする。
「私の名前はリョナ。もう忘れないでね。」
少女は、リョナはもう一度遥かに口づけをした。
あれから数日がたった。
体は段々と力が入るようになり、起き上がれるまでになった。
声も出せるようになったので点滴のことを聞くと、「これは傷口を腐らせないようにする点滴だよ。」とリョナから教えてもらった。
ご飯は相変わらず固体状のものではない液体に近いご飯で、味がうすい。
水は飲んでいいということなので、水を飲んで腹を膨らませている状態だ。
「おはよう。遥。」
唯一遥が疑問に思うことがあるとすれば、リョナと自分自身の関係があったのか思い出せないことだ。
しかし、人間とは怖いもので異常な状態でも慣れてしまうものだ。
遥はこの奇妙な関係性に慣れてしまった。
リョナが遥にキスをし、遥にハグした。
「遥は、私のことが好き。私も、遥のことが好き。」
リョナはさらに遥を強く抱きしめる。
遥はずっと浮かんでいる疑問をリョナに問いかける。
「ねえ、いつ帰れるの。」
問いかけたとき、乾いた音が部屋中に響き渡る。
「どうして。」
遥はすぐにリョナの異変に気がついた。
「あ、ご、ごめんなさい。」
「どうして。私と一緒にいたくないの。」
「ち、ちがう。」
「違うわけ無いでしょ。なんで。こんなにお世話してるのに。」
リョナは遥の首を絞める。
「あ゛、あ゛。」
遥は醜いゾンビのようにもがいている。
「あなたは私がいないと生きていけないの。そして私もあなたがいないと生きていけない。そうでしょう。」
大きな声でリョナは遥に怒鳴りつける。
「うんって言って。はいって言って。」
遥は必死に首を縦にふる。
リョナの手の力が緩む。
「よかった。」
リョナは再び遥をハグし、ベットに押し倒した。
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