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綺麗な入道雲の写真を撮る/やりたいことリスト#55

 やりたいことリストをつくるにあたって、一番困ったのはやりたいことが思い付かないということだった。一見すると矛盾するようだが、そもそもやりたいことがなくて退屈な毎日を変革するために、やりたいことリストを始めたので、埋まらなくても無理はない。散文的なことを書くと、やりたいことを見つけるのがやりたいことになっていた。

 それでも願望の少ない脳みそから何とか欲求をひねり出してみたら、初めの方に思い付いたのは、やはり食や性などの動物的な欲求だった。趣味嗜好の少ない人間でも、根源的な欲求には無関心ではなかった。

 それに類似しているのかもしれないが、僕はわりあい自然が好きで、特に夏の入道雲は本当に美しいと思う。なぜ入道雲に心惹かれるのかを調べたら、青と白のコントラストや、雲の大きさ、雄大さに、人は感動するからだと知恵袋で見かけた。美術も美学も色彩論にも疎い僕には、細かな分析はできないが、一面灰色がかった梅雨の空と比べれば、大概の人間は澄んだ青と混じりっ気のない雲の対比を見たいと思う。

 そんな理由で「綺麗な入道雲の写真を撮る」ことをやりたいことリストに付け加えた。ただもちろん、その辺を散歩している時に入道雲が見つかったとしても、高層ビルの無粋な鋼色に阻まれるだけなので、今回は目的達成のために滋賀まで行ってきた。どうせなら琵琶湖に下に控えてもらえれば、よっぽど良い写真が撮れると思ったからだ。ついでに滋賀県の観光もしてきたので、その写真も載せていく。


入道雲

 向かったのは滋賀の大津市だ。京都府の隣で、滋賀県の南東に位置している。電車で行ったのだが、駅を出てすぐの第一印象は、閑静で良い場所だと思った。琵琶湖方面の出口(おそらく発展した方)を出たのだが、高層ビルはほとんどない。ここの写真を撮り忘れていたので、ネットの拾い画になるが、雰囲気はこんな感じだ。


駅を出て正面。ごみごみした都会臭さがない。

 市の中心の割には静かで暮らしやすそうだった。近江牛を謳う観光客用の飲食店や、滋賀県名産品を売る店でもあるのかと思ったが、特にそんなものは(見つから)なかったし、観光客を出迎えるような雰囲気も感じなかった。ただその町に住む人々が粛々と暮らしているだけだった。

 写真には右奥に伸びる道路が映っているが、そこを真っすぐ進めば歩いて10分ぐらいで琵琶湖に着く。道中の印象も駅を出た時とそれほど変わらない。道沿いには、いかにも地元の人間が昔から営んでいるような喫茶店やら雑貨屋、それにどこに行ってもあるような民家が並んでいる。お隣の京都を歩いていれば、名産の抹茶を使ったスイーツの看板がすぐに見つかるが、ここにはそういったものは見当たらなかった。

 一般常識として、日本の県庁所在地を答えられないと常識知らずの馬鹿野郎だと鼻で笑われるけれども、有名になろうとしない大津市にも責任の一端はあるようだ。別に大津市の人がなんとも思っていないなら(事実なんとも思っていなさそうだった)、構わないけれど、これでやっていけるものなのかと考えずにはいられなかった。基本的にどこに行っても観光客を迎えるようなムードはなく、年寄りが道楽でやっている古本屋みたいなもので、好きに見ていって、好きに帰ったらいいと言われているような気がした。駅前に観光客用の店が見つからなかったことはさっき書いた通りだ。それでも昼ご飯を食べようと思って「近くのランチ」と調べたら、イタリアとフランス料理店ばかりヒットするとは思わなかった。

 琵琶湖に着いても、その雰囲気はやっぱり変わらなかった。金閣の湖(池?)の周りに観光客がひしめいているのを想像していたわけではないが、それなりに写真を撮りに来た人もいるだろうと思っていた(ちなみにその日は日曜日)。ところが周りにいるのは、キャッチボールをする親子、ジョギングをするおばさん、手慣れた釣り人、そんな人たちばかりだった。拍子抜けをしなかったと言えばウソになる。

 こんな風に書くと滋賀(並びに大津)を馬鹿にしているように思われるかもしれない。ところが実情はその真逆で、こんなに人も少なくて、静かで、適度に放っておいてくれるのは、内向的な僕のような人間には絶好の穴場のように思えた。
 その上、言わずもがなで湖は美しい。琵琶湖を見たことがない人がどんなものを想像するかは分からないが、僕はあれほど遠くまで広がっているとは思わなかった。端まで見渡そうとしても地平線のように広がっていて、向こう岸の山と、どこで分かれているのかも判別できないほどだった。足元の水面はそんなに綺麗なものでもなかったが、押し寄せる波は穏やかで、海に比べればよほど静かだった。

 想像していたよりもずっと壮観な景色に感動したが、写真を撮ることも忘れなかった。観光客が少ないので、レンズに人が入り込むことはない。湖は美しく、どこまでも広がっている。問題は雲なのだが、こればかりはどうにもならなかった。そもそも入道雲は、通り雨や雷雨の予兆と言われており、天気が局所的に悪くなる日に見られるそうだ。そこで僕も、晴れ時々曇りの日をわざわざ選んでやってきたわけだが、その日は期待外れなまでに天気が良かった。一日中、太陽のぎらつく、くそ面白くもない快晴だったのだ。
 ただ一応、神様のおこぼれのような中途半端に大きい雲もあったので、とりあえず写真は撮っておくことにした。


遠くまで広がる湖と20点ぐらいの雲


写真右下:波が打ち寄せて水に濡れている



見る向きを変えれば、高い建物もある


少し湖から離れた位置からの写真

 御覧の通り、一番大きな雲を中心にシャッターを切るようにしたのだが、雲の雄大さに息を呑めるとはお世辞にも言えない。ただ写真では伝わりにくいと思うが、琵琶湖に関して言えば、想像していたよりもずっと見ごたえがあった。何度も言うようだが、どこまでも広くて穏やかなのだ。窮屈な六畳一間で、四方を壁に囲まれていると、こんな風に解放感に溢れた景色を見たとき思わず感動してしまう。何度も言うようだが、それでいて周りに人は少ない。普通の観光地なら静かに風景を堪能しようと思っても、人に押されたり、避けてやったりしなけらばならず、座るところも埋まっていれば、視界も遮られ、ぺちゃくちゃうるさくて集中できない。どこまで行っても自然に没入なんてできずに、世間から離れられない。ところがどっこい、ここは例外で、多分30分以上はぼんやりと湖を眺めていたと思う。この時間の貴重さは、ちっとも共感できない人もいれば、猛烈に賛成してくれる人もいるはずだ。

大津市観光

 その後もしばらく湖の周辺をうろちょろして、大方満足した後は、その辺りを観光することにした。街の大まかな印象を書くと、まず地理的には湖と山に町全体が挟まれた格好になっている。地図を見ると下のようなかたちだ。


中央下:赤丸が大津駅
北上してびわ湖浜大津の北あたりで写真を撮った
観光ルートとしてはオレンジの枠内をさらに北上した

 湖と山の間に道があり、その道に沿って民家やら店が並んでいる。飲食店は個人経営もチェーン店もあるが、数は少ないようだった。よくある軽い田舎の街といった感じで、ドン・キホーテもあれば、ゲオだかTSUTAYAもあった。たまにある高い建物は、大概はマンションだったと思う。途中でボートレース場があったので行ってみたら、高齢者はもちろん、若い大学生男女から小さな子供連れまでいた。小規模なショッピングモールもあり、こちらも老若男女揃っていた。
 全体的な感想を言えば、少し退屈そうだが、不自由もなさそうな街だった。波風の立たない落ち着いた場所だ。もし僕がここに住んでいたら、休みはたいていお決まりのショッピングモールに行って何も買わずに帰るか、競艇でスるか、最後の手段で京都に頼ることになるだろう。多分、地元の人も同じようなものじゃないだろうか。

 観光地としては比叡山延暦寺があったのだが、行くのが面倒なのでやめておいた。調べてもらえれば分かるが、やたらと乗り換えが多いのだ。だからこの記事は公平性を欠くかもしれない。おそらく琵琶湖の次に有名な観光地を書かないのだから。
 その代わりというわけではないが、近江神宮には行ってきた。僕はそれまで知らなかったのだが、ここもそれなりに有名な観光地らしい。なんでも神武天皇を祀っているとか、かるた発祥の地だとかだ。それはそれで結構なのだが、個人的にこの場所で素晴らしかったのは、琵琶湖と同じくその自然だった。森林の中に建てられたこの神社は、どこを見渡しても青い緑が見つからないことはなかった。道々、写真を撮ったので是非それを見ていただきたい。


「木漏れ日の道」というらしい。徒歩で来た人はここを通って行く。


200~300mはこの生い茂る雑木林を両手に楽しめる。


「木漏れ日の道」が終わると、目の前に鳥居が見える。
それをくぐって少し歩けば…


また階段があり、楼門が見える。


楼門をくぐれば本堂に到着。
おじさん、後ろ姿だけ許してくれ。


鳥居みたいなよく分からないものも。


「木漏れ日の道」…復路

 とまぁ、こんな感じで、建築自体も見事なうえに、どこまで行っても木々に囲まれ、人も少なく静寂の中で時間を過ごせる。特に「木漏れ日の道」は素晴らしく、聞こえてくるのは枝葉が風に揺らされる音と、近くの水路を流れる水の音だけだ。ベンチもあったので、心ゆくまで休むこともできた。

 琵琶湖を称えるときにも書いたが、観光地に行って何が嫌かといえば、やたらと人がひしめいていることなのだ。これは専ら、交通の便が充実したことと、情報が光の速さで行きかうことに由来するのだが、この二つは近代化の最たる悪弊だと思う。おかげさまで美しい景色や自然を楽しみながら、一人で落ち着いて過ごすなんてことは、ほぼ不可能になってしまった。知り合いにおすすめの浜辺を聞いてみたとしよう。大抵は若い男女が数組いて、ぼんやり立っているだけでも彼らの写真に入り込んでしまう。それなら人のいない場所を積極的に探すべきか?今度はろくに舗装されていない山道を歩いたり、無趣味な堤防に怒り狂ったような波が叩きつけられるのを眺めるだけで終わってしまう。

 そう考えると、今回の旅は百点満点だったと思う。当初の目的の入道雲は赤点もいいところだが、そもそも美しい景色を見たいと思ったのは、不安と緊張ばかりの世間を忘れたいと願ったからで、そうした趣向に大津は適っていた。同じようなことを考えている人には、是非ともおすすめしたい場所だ。

やってよかった度:7.5点(完璧な入道雲の写真をいつか撮りたい)

 最後に他の写真も載せておく。


昼に食べたハラミ定食
さすがに汗だくの男一人でイタリアンは行けなかった
とっても美味しかったです


十中八九、バンクシーではない



道路から見た山側


大津京駅のホームから


びわ湖ボートレース
600円負け

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