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木造住宅の耐震化が必要な理由 2024/2/11

 2024年元日の能登半島地震では、石川県の珠洲市内で4割超が全壊となるなど被害は深刻です。また、倒壊した建物の中で、建築基準法で震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないと定められた新耐震基準で建てられた建物も倒壊しているようです。
 今後、首都直下地震、南海トラフ地震その他さまざまな大地震が想定される中、建物の倒壊から命を守るための早急な建物の耐震化が必要とされているので、今回は、木造住宅の耐震化が必要な理由について解説していきます。
筆者は、建築に関する業務を25年ほど行っている構造設計一級建築士です。



(1)新耐震基準とは


 「新耐震基準」といっても、1981(S56)年にできた43年前の基準です。その後の2000(H12)年に木造の耐震基準は強化されているので、「新耐震基準」で倒壊したものの多くは、この1981(S56)年〜2000(H12)年までの建物ではないかと想定されます。
 2016年4月に起きた熊本地震の調査報告では、熊本県益城町の被害が著しい地域での木造建築物の倒壊率として
・旧耐震基準(S56年以前) : 28.2%
・新耐震基準(S56〜H12年) : 8.7%
・新耐震基準(H12年以降) : 2.2%
と、新耐震基準のものも一定数倒壊していることが報告されています。しかし、このうち2000年以降は、2.2%とかなり低い割合となっています。
 つまり、同じ新耐震基準でも、建てられたのが、2000年6月以前か以降かで大きく耐震性が変わります。

出典:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント(国土交通省)


(2)2000年の耐震基準の強化とは


・耐力壁の配置のバランスを良くする


 耐力壁の配置のバランスを良くするとは、例えば、建物の南面に一面の大きな窓を設けている場合などで北面には耐力壁が多くあるが南面には少ないケースがあります。このような場合、建物の北側は地震による揺れが少ないが、南側は大きく揺れ、建物が捩れることで南側に大きな力が作用します。これにより倒壊に至るケースがあります。
 これを解消するための基準が2000年6月にできました。

・柱、梁、基礎、筋交い等のそれぞれの接合部分を緊結する金物の種類を決めた


 木造(軸組み工法)の建物は、柱と土台や梁、筋交いと柱や土台や梁をそれぞれ金物等で緊結する緊結方法が2000年に基準化されました。しかしそれ以前に建てられた建物は、法令で定められた明確な基準がなかったため、しっかりとした緊結がされていないものが見受けられます。
 つまり接合が弱い建物は、柱が土台や基礎から抜け出てしまったり筋交いが外れてしまったりで、耐力壁が性能を発揮する前に倒壊してしまうことがあります。

・基礎の仕様の基準が明確に


 
基礎は、建物を一体化して支える役割があります。基礎がしっかりしていないと、地震の際に建物の構造部分がバラバラになり、倒壊に繋がりやすくなってしまいます。
 2000年6月以前の基礎の構造基準は、住宅金融公庫の規準のみで、法令で基礎についての基準はありませんでした。
 現在は、法令で規定された量以上の鉄筋が入った鉄筋コンクリート造の基礎が必要になっていますが、2000年6月以前は鉄筋量が少なかったり無筋でも違法ではありませんでした。2000年6月以降は、基礎の仕様の基準が明確になり、鉄筋量や、基礎の形状などの基準ができました

(3)耐震性を高めるために重要な「壁量」について


 木造の耐震基準としては、地震で建物に生じる力に抵抗する耐震壁の量を規制した、いわゆる壁量計算と言われるものがあります。この壁量を確保することが耐震性を高めるためにとても重要です。
【壁量計算】
(耐力壁(平面的な)長さ × 壁倍率(壁の強度の係数)) の階ごとの合計 > 階の床面積 × 地震力係数
それを桁行方向、梁間方向ごとに各階で検討します。
 1981年6月の新耐震基準で、1981年6月以前の旧耐震基準に比べて壁量を1.4倍とすることが規定されました。
 現在では、任意で選べる耐震基準として、住宅性能評価制度の耐震等級3で、新耐震基準の1.5倍の壁量とすることができます。

出典:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント(国土交通省)

(4)木造の耐震基準の変遷


1950年【建築基準法施行】

壁量規定制定(震度5程度の地震に耐えるもの)
1959年【建築基準法改正】
壁量規定の強化(震度6程度の地震に耐えるもの)
1981年 【建築基準法改正】新耐震基準
・壁量規定の強化(震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷
・震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れるもの)
2000年【建築基準法改正】(現在に至る)
新耐震基準の壁量規定に加え、
・接合部の仕様規定
・耐力壁のつり合い良い配置
・基礎の仕様規定

(5)今後の木造の耐震基準


 

 小規模木造建築物等の構造安全性を確認するために、「省エネ化等に伴って重量化している建築物の安全性の確保のため、必要な壁量等の構造安全性の基準を整備」で建築基準法施行令等が改正され、小規模木造建築物に係る必要な壁量等の基準を見直しが予定され、令和5年12月時点での基準の見直し(案)等の概要が、国土交通省から公表されています。(令和7年4月に施行予定)
 今までの壁量計算が、いわゆる軽い屋根、重い屋根の2種類から必要壁量を算定する方法から、実際の各階にかかる重量から算定するより実態を反映できるやり方になるようです。
 この案は、省エネ化により太陽光発電設備を載せて屋根が重くなる等により改正が予定されているものですが、この案が出たあとの能登半島地震なので、この案のままでいくのかどうか、注目されます。

出典:木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準の見直し(案)の概要(令和5年12月版)(国土交通省)

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