【SS】なんでもない日の話
「ラムネの音ってビンごとに違うって知ってた?」
「はあ?何それ。」
「本当だって。今度聞いてみなって。」
「違いが分かるほどラムネは飲みません。」
土曜日の昼下がり。あいつに頼まれごとをされた。
「カーテンをつけたいんだけどさ、どれが部屋に合うのかわかんなくてさ。アドバイスしてくれないかな。」
「別にいいけど。部屋をもう一度見せてくれる?」
「いいよ、もちろん。ありがとう!!」
最近、あいつの都合のいい女になりつつある気がするのは気のせいだろうか。とはいえあいつの頼みを断れないのだから情けない限りだ。この日も自分から言ったとはいえ、のこのことあいつの部屋まで来てしまった。おしゃれに模様替えしたあいつの部屋。以前あいつに貸した金魚鉢は相変わらずここにあり、あの日の金魚が気持ち良さげに泳いでいた。
「ああ、ごめん。中々水槽を買いに行く時間が無くて。もうちょっと貸して。」
「別にいいよ。今、特に必要ないから。」
金魚鉢はまだしばらくはこの部屋にあるのか。私の物があいつの部屋にある、そのことに妙な喜びを感じていた。
「そうそう、カーテンの見立てだったね。」
そう言って私は窓側を眺めた。
「どう?」
「そうだな、この感じなら淡いブルー系のカーテンなんかどうだろう。」
「ブルー系か。」
「うん。海の中にいるみたいで落ち着きそう。」
「いるのは金魚だけどな。」
あいつのおどけた口調にちょっと笑った。あいつはカーテンをイメージするように少し前へ出た。
「私より彼女に聞けばいいじゃない。」
私はちょっと試すように言ってみたが、私の前に立つあいつの表情は見えなかった。
「少なくとも……。」
少しの沈黙の後、あいつはこう言った。
「お前ならフリルのカーテンは選ばないだろうからさ。」
振り返ったあいつの少年のような笑顔が妙に眩しかった。そうか、彼女はフリルのカーテンを選ぶようなタイプか。
「よし!今からカーテン、買いに行くぞ!」
「えっ?今から?」
「善は急げ、っていうだろう?帰りにラムネ、おごってやるからさ。」
「はあ?せこい!もうちょっとさ、高いものおごってよ。それかおしゃれなお店とかさ。」
「お前だって、この前おごってくれたのはコンビニのコーヒーだろう?おあいこだよ。」
またいつもの会話が始まった。私のあいつの心地良い関係。今はまだ壊したくない、と思った。
(彼女だったらおしゃれなカフェとか連れて行くんだろうな。)
そんな思いを心の隅に押し込めながら。
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「ラムネの音がビンごとに違う」は個人の見解です。悪しからず😁
以前書いたSS『腐れ縁の行方』の続きです。
この二人どうなるんでしょうね😅
不定期のシリーズにする予定です。
なお、ヘッダーの画像はみんフォトのあやめしさんの作品を使わせていただきました。ありがとうございます🙇