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記憶に残る元カレグランプリ#1『和食にファンタboy』

備忘録も兼ねて、「私の記憶に爪痕を残したあの子」のことを書いていきます。
シリーズ”記憶に残る元カレグランプリ”。
数々の失敗を忘れず、振り返っていくことで、人間関係偏差値を上げていきたいと思っております。




何と比べるかはそいつを拾った畑で決まる

何年か前
東京に転勤になったのを機に、マッチングアプリを始めてみた。

さすが東京、何百という人とマッチしていく。見るからにヤバい奴もいれば、好青年の皮を被った歩く性病もいる。
あーこれは選択を間違えるとえらいこっちゃやで、ということを痛感し始めた頃、彼と出会った。

有名な外資ホテルに勤める彼はサービス精神に溢れており、学歴、言葉遣い、身だしなみ、どれをとっても文句の付けようはなかった。

そして何より、感情の表現がまっすぐ直球、ストレートだった。
告白の言葉は覚えていないが、「もっと捻りようなかったんか」という感想を抱いたのは覚えている。

しかし、今までアプリで出会ってきた子達と比べれば、こんなにいい子は他にいない。そう思った私は、彼と付き合うことを決めた。

大学生の頃は、彼氏候補をその他と比較するときは”大学生”という母集団を基準としていた。
その中でも、スポーツ系のサークル、国際系の学部、という風に細分化されるが、やはりその子を比べる相手は同じような環境にいる子だった。

マッチングアプリの怖いところは沢山あるが、中でも怖いのは
普通に出会ってたら「それ程でもないな」と思うような人が、
アプリで出会うと「こんなまともな人いたんだ」に変換されることだと思う。
入口が違うだけなのに。

これは多分、私が私自身に一生涯言い聞かせなければならないことだとは思うが、
物事はよく比較検討した上で決定する必要がある。



ロマンチストと私の相性は、悪い。


彼にはロマンチストな面がかなり強くあった。

ある日、ある夕暮れ、散歩の途中
彼はなんともなしに私にこう言ってきた。

「ねえ。俺、結婚したら絶対離婚せん」

きっと普通の女子であれば、『なにそれプロポーズ?一生大事にします的な?』となんだか嬉しく感じたりするのかもしれない。

だが可愛らしさの欠片も無い私は違った。
彼の方を向き直り、無表情の私が口を開いて最初に言った言葉はこうだ。

「はあ?何それ暴力やん」

彼は「え」という顔で立止まった。私も止まった。

「そんなん本気で言うてんの?
相手が離婚したい言うてんのに、自分のそんなこだわりかなんか知らんけどしょうもないエゴで相手の意向を無視するってそれ、相手にとってみればただの暴力やと思わんの。
それ絶対結婚する相手には言うたらあかんし思っててもあかん。」

それはもはやモラハラで逮捕されるレベルの否定だった。
正確な内容は覚えていないが、そういう内容を一気にまくしたてた。


今だったら「勝手にしてくれ」と流すような内容だが、当時の私はかなりこの発言に腹を立てた。私の両親は離婚しているが、それを否定されたような気がしたからだ。
『離婚は悪いことではない』 
口では皆そう言うが、実際のところは違う。
離婚するのは我慢が足りないからだ、だとか、結婚に失敗したカップルのゴール地点が離婚だ、とか思っていたりする。

彼の”離婚しない発言”の言外にある意味合いを、私は勝手に想像して、勝手に怒った。
彼は私の両親が離婚していることを知っていながら、その持論を私にこぼしてしまった。


そんな出来事が、ある日曜日の夕方にあった。
やっぱりロマンチストは苦手、と思った。時に彼らはピュアで残酷だ。




ファンタという選択肢


世の中にはファンタという駄菓子をジュースにしたような飲み物がある。
個人的には全く好きではない。
あんな味も匂いも濃いものいつ飲むんだ、飲むとしても小学生までにしといてくれ、という偏った意見を持っている。

そんな私が、ある夜和食を作った。

あごだし、というちょっとお高いトビウオの出汁を使った煮付がメインで、同じく出汁から取った味噌汁、お浸し、鶏肉と蒟蒻のピリ辛炒め等々
割と頑張って作った。

時間と、手間をかけて。

男性の皆さんにはよくよく分かっておいてほしいのだが、味噌汁ひとつとっても、簡単にパパっとできちゃう料理なんて存在しない。
何にしたって手間はかかる。覚えておいて下さい。


席についた彼が最初にしたこと
それは「おいしそう!」や「準備してくれてありがとう」などの述べるべき感謝の言葉を述べるのではなく

「あ」と思い出したように自分のリュックの元へ行き、ごそごそと何かを取り出してそれを持ってくることだった。

派手な紫のペットボトルを開けながら席に座り直した彼を、私は穴が開くほど見ていた。まじまじと。
ペットボトルの中身をひとしきり飲んだ後
普通の顔をして、普通にご飯を食べ始めた彼を見て思った。

え、嘘やろ…?

「いぃやちょっと待って待って待って」
そういう時って思ったより低めの声が出るのは誰でも同じだと思う。


え、何?おいしいよ?と不思議そうに私を見てくる彼。
机の上には蓋を開けられて放置されたファンタ。
漂う安いグレープの匂い。
出汁の匂い、どこ行ったんや

「一回それ、蓋閉めてもろてええ?ほんであれやわ、ご飯終わったら話あるわ」



蓋が閉まったファンタと、彼と彼の荷物が私の家に帰ってくることはなかった。

私は思った。強く思った。
何事にも、「許せる/許せない」を決めるボーダーがあるけれど
そこを曖昧にせず、きっちり持っておこう。

相手と自分のこれからのためにも、ずるずるダラダラ何となくが一番駄目だ。時間は有限だ。

きっと彼の未来には器の広い女の子が待ってくれている。
私の未来にはファンタよりも緑茶を好む男の子が待っている。
そういった可能性を惰性で奪い続けることは、双方にとって損でしかない。


私は和食にファンタは許せない。



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