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「カーン・ダイナスティ」というネーミングについて

先日「アントマン・クアントマニア」を友人と見てきました。

そこで初めて”カーン”の発音をちゃんと聞いて(あとスペルを見て)色々と考えることがあったので友人に話してみたら、「原作者そこまで考えてないと思う」と言われてしまいました。

「そんなはずは…」と思いつつも、あんまり語りすぎてもキモいのでその時はそこで辞めたのですが、やっぱり消化不良なのでここでその考察を吐き出そうと思います。

「征服者カーン」について

これについては、世界史を齧ったことがある人なら元ネタはすぐにピンとくると思います。

おそらく”カーン”はユーラシアの騎馬遊牧民が用いた君主の称号”汗(日本語表記はハーン、カーン、ハン、カン等)”から来ているはずです。
日本人にとっては”チンギス・ハン(ジンギスカン)”や”フビライ・ハン”などモンゴル帝国の皇帝として馴染み深いのではないでしょうか。
(私も含め当初は”ハン”が名前の一部だと思ったという人がほとんどだと思いますが、、笑)

音だけでも以上の推察の裏付けにはなるのですが、”征服者”という称号についても考えてみます。

「征服者カーン」の英語表記は”conquer kang”です。
”conquer”とは”conquest”に接尾辞を付けて変化させた語であり、”conquest”はラテン語由来で、「熱心に探し求めること」が原義です。
「征服」を意味する動詞は”conquest”以外にもあるのだが、以上の理由から、領土拡大のニュアンスを強く含むのは(私の知る限り)これ以外にありません。
身近な例で言うと、キリスト教圏の再拡大を狙う”レコンキスタ”の原表記(スペイン語)は”reconquiesta”であり、”conquest”が隠れていることが分かります。

ここで、次のような反論が考えられます。
「征服者カーン」は、本編では他の世界を蹂躙し自分の支配下に置いていくというのであるから、そのイメージから”conquer”という称号を用いたのだ。確かにそのような説明には一定の説得力があります。

しかし、このように考える方が自然ではないでしょうか。


つまり、物語のプロット上、マルチバースを”征服”して回るボスキャラが必要であり、”征服者”という称号あるいは「立場」が先に形成され、そのキャラのネーミングを考えるにあたり、”征服者”としてのイメージを強く持つモンゴル帝国の君主号を名前に据えることにした、と。



(ヨーロッパにとって遊牧民は”征服者”としての認識が強いと思われます(”タタールのくびき”やローマ包囲、ビザンツ帝国の滅亡など??完全に主観ですが)し、何よりチンギスが築いた帝国の領土は人類史上最大だそうです。)

”kang”という綴りについて

さて、以上見てきたところを踏まえると、「カーン」の綴りとしては「汗」のアルファベット表記である”khan”が自然であるように思います。

しかし、クレジットを見てみるとその表記は”kang”となっていて、上記の綴りと一致しません。

では先程までの考察は見当違いだったのでしょうか?
私はそう思っていません。

ここで登場するのが、冒頭で少し書いた発音の話です。
先程から何度も示している通り、カーンのスペルは”kang”です。gが発音されないのは、Hongkong(香港)の例に見られるように、ngで「ン」の音を構成しているからです。
(”ン”という音の出し方には複数種類あり、日本語や英語は文字でそれを区別して運用していない一方、中国語などの言語ではそれらを区別するため、固有名詞を英語表記にすると、苦肉の策としてこのような表記にってしまうようです。)

ところが、「アントマンクアントマニア」では、カーン役のジョナサン・メジャーズさんの発音が「カン”グ”」と言っているように聞こえるのです。

ただのクセと考えることもできるかもしれません(実際、黒人は白人と異なる文法・発音で英語を喋ることが知られています)が、次のように考えることはできないでしょうか?

”kang”というスペルは、”king”と連想させるために作られたのであり、ジョナサンさんの発音はそれを観衆に伝えるための意図的なものである。

いささか突拍子のない考察に思えるかもしれませんが、このように考えた理由は以下の通りです。

「カーン」が「汗」から来ている、と考察できる人にとって、「征服者カーン」がどのような位置づけのキャラクターであるかを容易に理解できる一方、そうでない人にとっては難しいかもしれません。
そこで、(少なくとも英語を母語話者とすると人にとっては)馴染みの深い”king”と似た発音を与えることによって、彼らにも制作陣の意図を伝えようとしていると考えられます。
後半が分かりにくいと思うので少し説明しておきます(理解できた方は読み飛ばしてください)。
前述の通り「汗」は遊牧民族の君主の称号です。そして、遊牧民は欧米にとって征服者と同義であり、その君主たる「汗」とは、まさに征服を行う者たちの王なのです。
さて、”kang”を”king”に置き換えて「征服者カーン」のスペルを改めて確認してみると、
”conquer kang”→”conquer king”
つまり、「征服者の王」となります。

これらのことを全て言語化して理解する人は多くないかもしれませんが、英語の発音とそれと結び付いたイメージによって世界観が作り上げられているネイティブにとっては、”conquer kang”という音から「汗」と似たイメージを連想させられる人が少なくないのではないでしょうか。

カーンダイナスティというネーミングについて

以上を見てきたところを踏まえると、アベンジャーズ次回作てある「カーンダイナスティ」というタイトルが、いかにオシャレなものであるかが実感できるのでは無いでしょうか。

このタイトルから恐らく皆さんが連想するのは、日本とも馴染みの深い中国王朝「漢王朝」でしょう。
例のごとく綴りを見てみると、「カーンダイナスティ」は”kang dynasty”、「漢王朝」は”Han dynasty”であり、これも音を用いたシャレのようです。
これだけでもダブルミーニングということでオシャレなタイトルなのですが、以上の私の「カーン」についての考察をここに加えると、”kang dynasty”とは、


”kang dynasty”=カーンの王朝
”han dynasty”=漢王朝
”king dynasty”=”王”の王朝


というトリプルミーニングということになります。
どうですか?めちゃくちゃオシャレなネーミングじゃないですか?

※王の王朝だと意味が分からないですが、王朝の中の王、即ち、最も強力な支配者軍団という意味で理解すると納得感があります。
※漢王朝については栄華なイメージと結びつけられそうな気もしないではないですが、ただのダジャレと考えた方が自然な気がします(漢王朝については、その中身を詳しく知っている人より、名前だけは知っているという人の方が圧倒的多数だと思うので)。

最後に

以上、つらつらと思ったところを書いてはみたのですが、英語や歴史については専攻分野というわけではないので所々間違っている可能性はめちゃくちゃあります。

もっとも、個人的には、作品の考察というのは、ああでもないこうでもない、と自分の頭で考える時間が1番楽しいと思っているので、ここは正しいかも、ここはおかしいだろ、などなどと思いながら読んで頂いて、皆さんの考察の一助になれば幸いです。






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