魚の目は泪
ハル、、、女性。就活中の大学生。
レイラ、、、男性。上半身にフィッシングベストを着た人魚。
エリ、、、ハルの孫娘。50年後、ハルと同い年
夕方の三宮
リクルートスーツに身を包んだハルが街中を歩いていると、スマホに通知が来る。タップして就活の合否メールを開く。
肩を落とし、再び歩き出す。
夜の砂浜。
ハル、到着。月明かりの照らす海に対面して深呼吸をする。
バッグを打ち捨て、ビニール袋からビールを取り出して缶を開け、一気飲み。その後、砂浜に寝転ぶ。
ハル「あーあ。何やってんだろ、あたし」
仰向けで空を眺める。すると波打ち際から誰かの気配がする。
人魚は金属パーツを口から外して言う。
レイラ「ぷはーっ!ついた〜」
顔を上げるとそこには男性の人魚がいた。
目が合う2人。
レイラ「えっ!?ニンゲン??」
ハル「なっ何!?」カバンを拾い上げて身を守ろうとする。
レイラ「ちょ、ちょっと待って!、、、君ニンゲンだよね!?」
ハル「は、はあ?」
レイラ「ぼ、僕はレイラ、ニンゲンの文化を学びにきたんだ、、、もしよかったら僕に君たちの文化をっ」
(話を遮るように)
ハル「あぁーーーーー最悪だ!確かに最近モンエナが効かなくなって来てる気はしてたけど、こんな形で副作用が出てくるとは!もぉう!明日最終面接なのに!」(頭を抱える)
レイラ「あのー、、、?」
ハル「まだ幻覚が見えるぅうううう」(目を抑え叫ぶ)
ハル(目を覆っている手をゆっくり外しながら)「え、現実?」
場面転換、同日夜の砂浜
ハル、レイラ(缶ビールを持って)「かんぱーい」
ハル「あたしハル、よろしくね!」
レイラ「よ、よろしく」
ハル「それにしてもこのクッッッッソつまんないサイテーの世の中に人魚なんていたんだねぇ、はいビール」
ハル(小声で)「人魚ってお酒飲んでいいのかな」
レイラ「僕たちはニンゲンから隠れて生きてきたので、、、。この鉄の筒は?」(ビール缶をジロジロ眺めながら)
ハル「中にビールが入ってるの。」(ビールを口に含んで)
レイラ「ビール?、、、ふーん、、、苦いけど美味しい、、、」
ハル「昔はよく来てたんだけど、このあたりも変わったなー。レイラはよく来るの?」
レイラ「ふつう僕たち人魚は300年生きるんだけど、初めて陸に上がったなぁ。」
一息つく
レイラ「そういえば、ハルは、なんでこんなところに?」
ハル(頭をかきながら)「今はねー、、、ニンゲンにとって一番忙しい時期なの。それで、、、自分がどんなニンゲンか分からなくなってきちゃって、しまいには性別で自分の働くところまで勝手に制限されて、、、親にもこれが終わるまで帰って来るなって、、、そう言われて、逃げてきたの、、、。人魚はいいよね。海の中気ままに泳いでればいいんだから。」
レイラ「そんなことないよ。実は、、、僕たちは泳ぐ速さでムラでの強さが決まるんだ。それで、、、女性の方が泳ぐのに身体の形が泳ぎに向いてて速いから、男の人はずっと女の人の漁の支度とかをして海の底ので大人しくしてるしかないんだ。」
ハル「確かに、人魚って女性のイメージだわ。なんか人間の逆だね。」
レイラ「でも、僕がこれを発明してからは、息が続かなくて陸までたどり着けなかった男の人でも、この呼吸器でどこにでも行けるようになったんだ。」
ハル「へえ、すごいね」
レイラ「僕は、男の人が何かに縛られることなく生きられる世の中を作りたい。僕の発明で、世の中を変えるんだ。」
ハル「、、、」(レイラの方を見つめ、感心する。恋心はない。)
レイラ「そろそろ仲間に陸に上がったことがバレるから帰らないと。」(腰を上げる)
レイラ、海に腰まで入って振り返る
レイラ「あ、だったらハルも、こっちで暮らさない?」
ハル「えっ、えっ」
レイラ「ニンゲン一人ならどうにか暮らせるんじゃないかな。そんなに陸での暮らしが嫌ならこっちに来れば良いんだ。ハルも陸に未練はないよね?」
レイラはハルに呼吸器を手渡し、ハルも足まで海に入る。
レイラ「海の暮らしはそれなりに楽しいよ。音楽も素敵だし、、、きっと気に入るよ」
ハル「あたし、、、」
レイラ「ほら、これ(呼吸器)つけて、、、僕は仕事で当分、むこう50年は、来れないから、これで最後の機会だよ。」
俯くハル
ハル「、、、やっぱり無理!このクッッッッッソつまんなくて生きにくい世の中を私たちの代で終わらせたいからっ!、、、だから、気持ちはありがたいけど、陸に残る、、、」(叫んで言う)
レイラ「、、、そう、無理強いはしない。じゃあまた、ちょうど50年後の今日に」
ハル「はは、50年後の今日に」
レイラは海に帰る。それを見守るハル
50年後
同じような夜、レイラは同じ砂浜に上がる
レイラは少女と目が合う。しかし彼女は私服である。
エリ「ほんとにいたんだ、、、」
ここからレイラのナレーションとともにエリとレイラが波打ち際で話すシーンが流れる。
「残念ながら待っていたのは彼女ではなかった。その子はエリといった。ハルの孫娘らしい。そして、ハルは先日亡くなったらしい。エリは、ハルの最期についてこう語る。『おばあちゃんは、安らかな顔だった。でも、2人きりの時に、この日で待っている人がいるから、エリ、代わりに伝えてきてって』そういうとエリは私に写真を見せてくれた、古いものから最近のものまで。人魚には涙というものは出ないらしいが、その時は出てきた気がする。大粒の真珠のような涙が」