出汁の種類
先日、日本酒の出汁割を提供している店に行った。これがとんでもなくおいしい。出汁のうま味の後に、日本酒の香りと味が調和し、どんどんお酒が進んだ。おいしすぎるのも罪なものだ。店員さんに何の出汁か説明してもらったような気がするのだが、いかんせん覚えていない。そういえば、昆布出汁にかつお出汁、椎茸からも出汁は取れるが、一体何が違うのだろうか。
〇そもそも出汁のうま味とは
長らく基本的な味は甘味、酸味、塩味、苦味の四つであると思われてきた。しかし、この四つの味だけでは説明できない味が存在すると気づいた旧東京帝国大学の池田菊苗博士は、1908年に昆布に多く含まれているグルタミン酸ナトリウムが第5の味である”うま味”だということを発見するのだ。それに続き、1913年に小玉新太郎氏がかつお節のうま味物質が核酸の一種であるイノシン酸塩であることを発見した。少し時間はとび、1957年にヤマサ醤油研究所の國中明博士はグアニル酸塩がうま味物質であることを発見、後に中島寛郎によってグアニル酸塩が干し椎茸のうま味成分であることが明らかにされた。
3つのうま味成分の発見がすべて日本人であることに驚く。繊細な味覚をもつ日本人だからこそ、発見できたというべきなのだろうか。確かに、甘味は甘い、酸味は酸っぱい、塩味はしょっぱい、苦味は苦いとほかの味は一言で表すことができるが、うま味はどのように表すべきなのだろうか、コクでもないし、味に深みがある?しっくりくる表現が見つからない。表現できないものを見つけるという過去の偉人に感銘を受けるばかりである。ちなみに、世界的にもうま味は”UMAMI”と呼ばれており、日本人として鼻が高い。
〇うま味の相乗効果
また、うま味物質には面白い特性がある。それはうま味の相乗効果だ。それぞれ単独で使用するよりも、グルタミン酸とイノシン酸を組み合わせることで、7~8倍強くうま味を感じるというのだ。これは科学的に証明されている。それぞれうま味受容体に結合する場所が異なり、組み合わせることでうま味受容体に入る物質の分子が大きくなり、安定することによって、より強いうま味を感じられる仕組みなんだそうだ。
グルタミン酸の代表的なものといえば昆布出汁、イノシン酸の代表的なものといえばかつお出汁、このふたつを合わせたものは合わせ出汁として古くから使用されてきているが、このおいしさが科学的に証明されていることなのだ。古くから経験則でこの組み合わせがおいしくなると気づいていたのだろうか。
また、洋食で出汁といえば、フォン・ド・ヴォーが代表的だろう。材料は子牛の骨、子牛のすね肉、ミルポワとしてニンジン、タマネギ、セロリ、ニンニク、トマトを使用している。子牛の骨、すね肉にイノシン酸、ほかの野菜にはグルタミン酸が多く含まれており、これもうま味の相乗効果が期待できる。
中華だとウェイパーになるのだろうか。これも鶏ガラと豚骨をベースに野菜エキスなや香辛料など様々な材料をもとに作られている。鶏ガラ、豚骨にイノシン酸、野菜エキスにグルタミン酸とこれもうま味の相乗効果だ。
どこの地域でも料理の基本となる出汁が存在している。調べてみた感覚としては、和食の出汁は多くても2,3種類とシンプルな材料でとっているが、ほかの洋食、中華では様々な材料を使用して、複雑な味わいを作り出しているように感じる。これは食に対する考え方の違いのような気がする。
〇うま味成分を多く含む食品
グルタミン酸
羅臼昆布 2290~3380
真昆布 1610~3200
利尻昆布 1490~1980
トマト 150~250
にんにく 100
レンコン 100
ハクサイ 40~90
ニンジン 40~80
長ネギ 20~50
セロリ 20~30
パルメザンチーズ 1200~1680
チェダーチーズ 180
イノシン酸
豚肉 230
鶏肉 150~230
牛肉 80
煮干し 350~800
かつお節 470~700
いわし 280
たい 180~300
さば 130~280
グアニル酸
干しシイタケ 150
ほんしめじ 140
えのきだけ 50
身近な食品のうま味成分の多さに驚く。昆布にしいたけ、かつお節、煮干しなど古くから日本人に出汁として親しまれてきた食材はおいしいのだ。ただ一つ問題を挙げるとするならば、おいしすぎて食べ過ぎてしまうことくらいか。
参考資料
特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター
https://www.umamiinfo.jp/