退院しましょ
病棟はコロナのお陰でナースさんたちもバタバタしていた。
僕は腹のキズの痛さに耐えながら何とかトイレの往復をこなし、ベッドの上でただただ時間を過ごしていた。
朝と夕方に主治医の先生が様子を聞きに来てくれた。この先生はほんと親切だなぁと感じた。
先生がいう「退院しましょうか?ここにいても寝てるだけやから家におっても一緒やから。コロナになったらあかんしね。」
「いつですか?」「明日でもエエよ。」「迎えに来れるか聞いてみます。」「いつでも大丈夫なように書類書いとくから。」「ありがとうございます。」てなことで、急なことだったのでこの話の次の次の日に退院することになった。
予定より5日ぐらい早い。
まぁそりゃ寝てるだけだから家で寝てても一緒だよね。特に気を付けることもなさそうだし。
退院の日、車に乗って帰る。
外の世界は久し振りだ。
ジーパンは、履けた。ベルトが少し痛い。
駐車場まで歩く。相変わらず左手で左の腹を押さえ内蔵が飛び出すのを押さえているヤツのような格好で歩き続ける。僕はブサイクだ。
何とか車にたどり着き何の気なしにドアを開けて座ろうとする。乗れない…痛い😖
腹が痛い。
もうヨチヨチだよ。
何とかかんとか乗り込んで座る。いやぁ気がついた。車のシートというのは結構腹筋使いますねそうですねと。
乗っただけでもそうだけど、走り出したらもうね。ちょっとした振動や揺れに体が無意識に体勢を整えようとする。その度に腹筋は頑張ってたんだね。今穴だらけの僕の腹筋は、それに耐えようと動くのだけど、それはそれは痛すぎた。
幸いがんセンターから家までは、混んでいなければ車で15分くらいだ。
無事に家に着いた。
取り敢えずベッドに横になろう。
「あぁ、家に帰ってきた。生きて帰ってきた。そして腹のキズが痛い。僕は生きている。」
ここから僕の痛みを慰めるのは手元にある500mgのカロナールだけなんだ。
これからよろしくね、カロナール。