見出し画像

ICU の VIP になる

翌朝、いよいよ尿バッグが外された。
ここからは何としてでもトイレに行かなければならないんだ。
確か病棟の病室からトイレまではかなりの距離が有った。やべぇなぁと思った。

そんなことを考えていると、主治医と婦長さんがやって来た。
ん?病棟に戻る話だよね?

「俺から説明しようか?」
「いや、私から言います。」
「俺、主治医やで。」
「じゃあ、お願いします。」
何やねんな、そのやり取り。まぁ良い。

「あなたが戻るはずの病棟でコロナが出て今隔離しとるから戻られへんようになって、悪いんやけどしばらくここの集中治療室におってもらわんとあかんようになったんよ。コロナにかかっても良くないしね。」
ということで僕、集中治療室から帰れなくなった。

主治医が出ていったあと婦長さんが言った。
「身体がどうとか術後がどうとかでは絶対無いので安心してください。」
でも、集中治療室の他の患者さんは全員病棟に帰った。たまたま僕の病棟でコロナが出て、僕だけが帰れなくなったのか。そういうことだろう。
おそらく手術のある曜日は決まっていて、次の手術のある曜日までは新しい患者さんはだれも来ないのだろう。
まぁ静かだしここでも良いかと「わかりました。」と返事した。
テレビも持ってきてくれてお昼まで快適に過ごした。

不思議と尿意がない。漏らしてる?
いや、漏れてない(笑)

昼食前、婦長さんがやって来た。
「申し訳ないので、集中治療室の一番良いお部屋に移動させていただきますね。ご迷惑をおかけします。」と。
いやいや、やめてくださいよ、僕はここで良いから…よう言わん(笑)

やむなく僕、VIP ルームに行くことに。
歩かなあかんやん!
そう、地獄の行進が始まったのだ。しかし、そっちの方がトイレに近いらしい。
なんとかベッドに座り、点滴のポールに点滴と硬膜外麻酔のカプセルをぶら下げ、ドレーンから出てくる排出物を受け取る入れ物をぶら下げ、ポールを握って歩く。
おや?少しましだ。歩ける~
激痛ですよ激痛!ほんとはね。我慢だ。

なんとかVIP ルームに到着。
何ですかこれ?今までいたカーテンで仕切られた部屋の3倍位の広さのど真中にベッドがあり、足元の天井からテレビがぶら下げられており、その向こうは窓から外が見える。
そして仕切ってあるのはカーテンではなくガラスだ(笑)
ここで僕は何日過ごすんだ?
まるでドラマで見た助からない政治家や芸能人みたいだ。そう、最終的に助からない…

そもそも僕はVIPではない。なのに、部屋がVIPだから対応がVIPだ(泣)
担当ナースさんが2人ついてる。要らないよう~ごめんなさい~

ガラス張りの部屋で落ち着かない時間を過ごす。
やべ、トイレに行きたい。
ピンポーン🎵
ナースコールを押した。
ナースさんが来てくれたのでトイレに行きたい旨を伝え同行してもらう。
痛すぎる。痛すぎるが漏らすわけにはいかない。仕事柄ひと様のオムツやパット交換は何ともないが、自分がされるのは遠慮したい。

何とかトイレにたどり着き用を足す。ドアの外で待っているナースさん。無事にでっかいビーカーに尿をとって量を計り報告する。セルフサービスだ。

便器に座ったり立ったりがまたこれ地獄でね。
ベッドまで戻り横になる。
患者の心境…またすぐトイレに行きたくなったらどうしよう。すぐにナースコールを押すと「さっき行ったじゃん」とか思われるよな。
日頃の自分の仕事振りを反省した。心の中で「さっき行ったばっかじゃん」と思ってる。
いざ患者になると、さっき行ったのに行きたくなるねん!!なんで?

ICU のVIPルームで僕は、順調にトイレに行けるように成長していった。
ただ、窓を向いている僕の後ろ側でどれだけの人が何をしているのか全く分からず落ち着かなかった。
VIPはそんなこと気にしちゃいけないのだよ。
きっとね(笑)

ナースさんから「夕方洗髪行きますね」と新たなミッションを宣告された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?