僕は生きていた
集中治療室に運ばれた。
どのくらい経ったのだろう?いや、時間はそんなに経っていないと思う。
動かない。身体が何も動かない。ハハハ…ダメだこりゃ。
麻酔がよく効いているんだろうな、何も痛くない。不思議なくらいに。
時おりナースさんが様子を見に来てくれているようだ。かろうじて問いかけに「はい」ぐらいは答えられる。
でもね、声が出ない。喉が痛い。きっとこれは気管挿管のせいだな。何となく血の味がする。
テレビで見たようなさまざまな機器の音がする。「ピッ!ピッ!」「ピポーン!ピポーン!」とか。
目を開けていられるようになった(笑)
天井しか見えない。何とか僕を囲っているカーテンが見える程度。
両サイドも術後の人が運ばれている。
周りでいろんな事が起きている、ようだよ。
「あぁ、疲れちゃったな。思えば何の自覚症状も無いまま、癌ですよと言われ、ここまで来てしまったな。これはホントに必要なことだったのかな?ホントに癌だったのかな?これで良かったんだよな?しんどい。つらい。何か悲しい。どうしてこんなことしなくちゃならない?」
そんなことが頭に浮かんだりした、気がする。
少しずつ足の先や手が動くようになってきた。
神経が繋がっている気がする。
「僕は生きていた。」
悲しいということから何となく離れてきて、込み上げてくるような感じがあった。泣けないけど。
ひっきりなしに代わる代わるやってくるナースさんたち。みんな優しい。もちろん仕事なんだけど、とはいえ優しさを感じる。
こんな僕のために何人もの人が携わってくれている。そう思うと、早く元気になって笑顔で接したいと思った。
身体は動かないし、なんならジワジワと何処やらから痛みが沸いてきているけど頑張ろうと思った。
それに早く退院したかったし。
どうやら夜がやってくるらしい。寝たり起きたりを繰り返し時間も分からないけど、ナースさんが減っていき、入れ替わる度に挨拶をしてくれる。
あぁ、寝よう。
でもね、マズイ(-_-;)
痛い。お腹の傷が痛い。
手が動き出したので自分の胴体を触ってみた。
感覚がない。正確には手には感覚があるけど、胴体に感覚がない。なのに…
いや待って、感覚がないのはみぞおちからヘソのやや下までの間って感じ。
「こ、これが硬膜外麻酔ってやつの効く範囲ってことか?」
そのときの僕はまだ、この後に来る痛みとの戦いの準備などしてはいないし、またウトウトしていたんだよな。