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毎日ポエム日記 その1『初めてのお葬式』

 テレビの中でよく見るような、綺麗な花畑。
 それが家から自転車で十分の場所にあると最近知った私は、土曜日の朝早くからそこへ行こう……と思っていたけれど、惰眠を貪るのが気持ち良すぎて、実際にベッドから起き上がり家を出たのは午後三時くらいだった。

 そこは川沿いにある大きな公園だった。併設されているグラウンドでは少年野球の試合が行われていて、元気な掛け声が飛び交っている。
 遠くにはお城みたいな謎の建物が聳え立っていて、大きめのドッグランもあって——カラフルな花を咲かせた綺麗な花畑が、日中の太陽に照らされて輝いているように見えた。
 初めてこの場所に来た時、私は天国があるとしたらこんな場所なのかなあ、なんて思ったのを覚えている。
 ちなみに上記の描写にはいくつか嘘を混ぜているので、この記事から私の住所がバレることはありません。

 乗ってきた自転車を乗り捨てて、花畑の真ん中をまるで視察に訪れた天皇陛下のような温かな眼差しでゆっくり歩いていると、左右に生い茂る草木の中で、何匹かの虫が蠢いているのが感じられた。
 トンボが二匹ほど目の前を通り過ぎ、蟻が足元を這い、羽虫が耳元でブウンと不快な音を立てる。
 かつて、子供の頃。私は大の虫嫌いで、あの頃の私が今のような状況になったら悲鳴を上げて半狂乱のまま走り出していただろうなあ、と思った。
 でも今は……確かに、不快は不快だけど。
 遠目には綺麗な花畑も、やっぱり近くで見ると虫がいっぱい居て嫌だなあ、と、確かに、確かに確かに、ちょっと水を差された気持ちにもなったけど。
 でも、我ながら心が落ち着いていて、虫そのものには、あんまり不快感を抱いていないことに気づいた。

 いつの間にか一人で過ごすことに慣れすぎて、家に一人で居ても、観光地に一人で足を運んでも、特に寂しいとも何とも思わなくなっていた。
 誰か他人を求めることもなく、誰か他人が寄ってくるわけでもなく……。
 でも、そんな私に、この虫たちは——
 一匹のチョウチョが私の体の周りを楽し気に飛び回っている。自分の飛び方を見せつけるようにトンボが目の前を横切って、蟻が人懐っこく足元をよじ登ってくる。
 何だろう。ずっと気持ち悪いとしか思ってこなかった虫に、こんな気持ちを抱くなんて、初めてだ。
 ちょっとだけ、愛おしいだなんて。

 遠くからワンと鳴き声がして振り向くと、そこには元気に駆け回る犬と飼い主たちの姿が見えた。
 ドッグラン……。
 そういえば昔、犬を飼っていたことがあった。
 おばあちゃんちに居た犬だ。
 一匹のミニチュアダックスフンド。
 ミニチュアっていうくらいだから、当然大型犬ではなかったけれど、子供の頃の私にとってはそれなりに大きかった。
 いつも小学校から帰って来た私が庭へ続く門を開くと、中からものすごい勢いでその子が走り寄って来て、そして立ち上がり、体全身を使って私にじゃれつこうとしてきた。
 胴の長いダックスフンドだから、二足歩行になって立ち上がると小学生の私と同じぐらいの高さになって、だから私は、可愛いとかよりも、怖いという気持ちの方が勝って……。
 いつもそうやって飛びつかれるたびに泣いて、私の元からその子を引き離してもらっていた。

 だけど、と、私の体に寄って来る虫たちを見て思う。
 あんなにも好意を持って私に寄ってくる生き物が、他にいただろうか。
 犬だからとか、虫だからとか、そんなの何も関係なくて。
 今はただ、自分の元に寄って来てくれる存在が、とても愛おしく思える。
 今の私なら、庭から駆け寄って飛びついて来てくれたあの子にも、同じくらいの好意を返せるだろうか……。

 生まれて初めての、お葬式。
 死んで燃やされていくあの子を前に、一切悲しいと思うこともなかった私。
 いつかまた会える日が来たのなら、広い草原を一緒に駆け回って遊びたいなあと、まるで天国のようにお日様の輝く場所で思った。




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