『ランニングの向こう側』
僕が朝のランニングを習慣にしてから、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
日々の変わらない景色、繰り返されるルート。
しかし、その日、僕は思いもよらない冒険の扉を開くことになった。
ある夏の早朝、僕はいつもの公園を走っていた。
霧が立ち込め、空気は重く、視界がぼんやりと霞んでいた。
その日は何かが違った。
いつもは通り過ぎるだけの古びた噴水が、その日だけはまるで新しいもののように輝いて見えたのだ。
足を止めて噴水の縁に近づくと、水面に不思議な反射が見えた。
そこには、この世界のものとは思えない景色が広がっていた。
青い空と金色の草原、遠くには異形の塔がそびえていた。
その塔は、まるで僕を呼んでいるかのようだった。
心臓の鼓動が早まり、僕は無意識に手を水面に伸ばした。
その瞬間、身体が吸い込まれるように水中へと引きずり込まれ、僕は異世界に投げ出された。
目を開けると、そこには先ほど噴水に映っていた景色が広がっていた。
信じがたいことに、僕は本当に異なる世界に来てしまったのだ。
足元には柔らかな草が広がり、風が心地よく頬を撫でていく。
周囲には奇妙な植物や生物が存在し、僕の知っている世界とは全く異なる雰囲気が漂っていた。
頭上には二つの太陽が輝き、青い空には見たこともない鳥たちが舞っていた。
茫然と立ち尽くしていると、背後から足音が聞こえた。
振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。
彼は僕と同じランニングウェアを着ていたが、その目は何かを知っているような深い色をしていた。
「君もここに来たんだね」と、少年は静かに言った。
僕が質問する間もなく、少年は「この世界には時間がないんだ」と続けた。
彼の言葉に導かれるように、僕たちは草原を走り出した。風を切り、未知の風景を駆け抜ける感覚は、これまでのランニングとは全く異なるものだった。
自由と冒険の香りが漂い、僕の心は不思議な高揚感で満たされた。
走り続ける僕たちの前に、突然古びた陸軍の制服を着た男たちが現れた。
彼らは旧日本軍の兵士たちだった。
しかし、その姿は奇妙で、時代錯誤のような雰囲気を醸し出していた。
彼らは銃を構え、僕たちを取り囲んだ。
「ここは立ち入り禁止だ」と、一人の兵士が声を荒げた。
彼の目には、深い悲しみと憤りが宿っていた。
少年は彼らに一歩も引かず、「僕たちは行かなければいけないところがある」と毅然と答えた。
その言葉に、兵士たちは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに顔を引き締めた。
「ならば、塔へ行くがいい。しかし、その前に我々の試練を乗り越えなければならない」と、兵士の一人が告げた。
僕たちは互いに奇妙な顔をしてみつめあい、再び動き出した。
旧日本軍の試練とは何なのか、塔に隠された秘密とは何なのか。