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短いお話し

小さな穴がありました
見つけた時は小さくて
落ちるはずないよと誰もが思っていた
私も絶対大丈夫だと

日に日に穴は大きくなって
飛び越えて歩くのに精一杯な大きさにまでなりました

さてさて、明日からは
どうやって通ったら良いのだろう

遠回りして別の道から行ったらいいんだ
それはわかっていたのだけれど
どうしてもその穴の大きさが気になって
今日もここに来てしまった

覗き込む
深く暗い穴

除いた後で回り道をした

次の日も、そのまた次の日も
穴は順調に大きくなり
私は毎日それを覗き込むのだった
ふらっとしたら落ちそうな 
ちょっとした怖さに
興味があった

そして、覗き込んでは回り道を繰り返した

いけない
いけないよ
と思ば思うほど
穴を覗き込む時間が楽しみになり
入ってみたい気持ちが膨らむ

落ちてしまおうか
どこまで行けるんだろう

どんな場所に辿り着くのだろう

甘いのか
苦いのか 
怖いのか 
優しいのか

その空間に興味が深まる

いけない
それ以上除いては
危険だと
誰かが私を引き止める
腕を掴むのは誰?

もう限界だ 
除くだけの毎日はつまらないと
思い始めていた

明日こそ飛び込んでみよう
そう思いながら眠る日々は続いて
穴はどんどん深く暗く大きくなって行く

やるしか無い

明日こそ入ってみよう

もちろん一人で
誰にも言わずに

何かが待っているかもしれない
何かが変わるかもしれない

後悔?
するとしたら飛び込まずに穴が埋められて
しまった時だ
きっとそう
だから今こそやってしまおう

そうして次の朝
いよいよ
私は大きな穴に飛び込むことにした

覚悟なんてなかったし
確信も持てなかったけど

その瞬間が欲しかっただけだ

もう這い上がれない
甘い世界があったとしたら
私は溶けて無くなるのだ

何があると思う?
私は間違っているのだろうか

息を止める
もう決めたのだ
飛び込むことを

知りたかったから 
その先を

興味なのか
ただの興味なのか

きっとわかると思うから

いまの世界を捨てるというより
新しい世界を見たいだけだ

ただ知りたかったから

そこに何があったとしても
飛び込むだけだ

息を止めた

今だっ

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