Weeds
第八話
雨の日
ある日のこと。
「葵ちゃん、来るかな...」
鉛色の空を見上げ、クルリと傘を回す。今日も約束してたけど、こんな天気じゃカメラもメモ帳も使えない。...雨の日のこと、考えてなかった。今度から、どうしよう。そう思っていたら、バシャッバシャッと足音が近づいてきた。
「あ、葵ちゃ...」
「逃げるわよっ、急いで!」
「ふぇっ!?なに!?」
葵ちゃんはいきなり私の手首を掴んで走り出す。私は戸惑いながらも、ただならぬものを感じてそれに続いた。地面を蹴るたび飛び散るしぶきで、バタつくスカートが濡れていく。自分が何から逃げているのかもわからず、ひたすら逃げる。ただがむしゃらに、走り続ける。躓いて転びそうになっては地面をぐっと踏みしめ、傘を取り落としかけては手にぐっと力を込めた。いくつもの角を曲がり、路地を抜け、いつの間にか雨も上がり...
「ここ、どこ?」
気付いたら、知らない道に立っていた。
「というか、そもそも何だった...」
「シッ!...まいたみたいね。」
「だから何!ここがどこかわかるの!?」
「大丈夫よ...うっ!」
「どうしたの?」
「なんだか変なにおいがしない?」
言われてみると確かに、悪臭がどこかから漂ってくる。でも、このにおい、知ってる。青臭い、独特な...
「...ドクダミ?」
「えっ?」
「これ、ドクダミっていう薬草の香りだよ!」
「薬草、なの?」
「こっちからだね。ちょっと行ってみよう。」
「ええっ!なんで行くことになるのよ!?」
「いいから。さあ、早く!」
渋る葵ちゃんを急かして、そっちに向かう。T字路を曲がって、
「うわっ!」
思わず悲鳴を上げて口と鼻を押さえる。いきなり、においがキョーレツになったから。葵ちゃんも顔をしかめ、火事の時みたいに、口と鼻にハンカチを当てている。こみ上げてくる吐き気を抑え、そろりそろりと目を動かして、においが漂って(押し寄せて!?)くる方を見ると............店があった。