随筆 スシと言えば、私は巻き寿司です
1 スシと言えば、今は回転寿司かな?
スシと言えば、もう20年ぐらい前から回転寿司だろうか。
私が住む隣町には、おもちゃの新幹線に載せて運んでくる回転寿司の店がある。
その新幹線はまるで駅にとまるように、注文した客の前でピタッと停車する
子ども達は大喜びである。近くで見ている私も思わず楽しくなってくる。
2 昔、握り寿司は大人の食べ物だった
私が小さな子どものころは、シャリというコメに大きな刺身が乗った握り寿司は、
大人がちょっとした宴会のために立ち寄る寿司屋で、熟練した板前が握るものであった。
それも、お酒の肴として少し食べるであり、回転寿司のように腹いっぱい食べるものではなかった。だから、子どもは普通の食事の料理としては、めったに食べるものではなかった。
3 我が家の寿司、それは「巻き寿司」
そんな訳で、家庭で子どもが食べるスシと言えば、バラ寿司、いなり寿司、そして巻き寿司であった。私の家では、なぜかスシと言えば巻き寿司だった。
しかし、他の家庭と違ったのは、とにかく巻き寿司を1年中、折に触れてよく食べたことである。正月の料理はもちろん、運動会、子どもの誕生日、遠足、お盆、秋の月見などなど、
何か少しでも特別な日であると思われる時には、巻き寿司を食べたのである。よほど母は巻き寿司にこだわりがあったのだろう。
運動会や遠足の日は、朝早く台所から、私が寝ている部屋の布団まで、海苔と甘酸っぱい香りが漂ってきた。「あー、今日もやっぱり巻き寿司だ」と夢見ながらも分かった。
目が覚めると、朝食にできたばかりの巻き寿司が出てきた。まだ、かすかに湯気が出ていて、我が家の巻き寿司の香がした。口に入れると、酢よりも砂糖の味がする、甘い甘い巻き寿司だった。
4 大人になって、巻き寿司の発見
巻き寿司とはこんなものであると思って食べていたのだが、大人になってから、
スーパーで巻き寿司を買って驚いた。巻き寿司のコメがすっぱいのであった。
巻き寿司の中の具もいくらか違っていた。我が家の巻き寿司は、甘いだし巻き卵や、アナゴ、などが詰め込んであり、甘いピンク色をしたお菓子の粉のようなものまで入っていた。その切り口はまるで、花柄模様を見るようで、綺麗だなと思った。
5 ふと思い出す、母の味
ふとしたことで、あの懐かしい「甘い巻き寿司」を思い出すことがある。ある日、「あの懐かしい味のする巻き寿司をもう一度食べてみたいな。」と思わず、ぽろりと私は呟いた。
「そんなに食べたいなら、あの世に行って作ってもらいなさい。」と傍にいた妻に一喝された。
子どもの頃に食べ慣れた味、数十年過ぎても、それはしっかりと私の舌に刻印(インプリント)されているようだ。