【読書】エル・スール

私は読書が趣味でして、今日はおすすめ書籍をご紹介します。

エル・スール

アデライダ・ガレシア・モラレス著

この本は、実は1度しか読んでいません。
大切過ぎて、心の中で摩耗させたくないから、読めないのです。
読んでから、ずいぶん時間が経ってしまいましたので、記憶が曖昧な部分はご容赦頂ければ幸いです。

子供にとって幼い頃は、周りの大人が、ルールであり、規範であり、教えであるように思います。自分自身が教えられる立場の子供から大人になるにつれ、無敵だと思っていた大人達が、自分と同じ様に弱さや欠陥を持つ人間なのだと知ります。
それでも尚、私たちはいまだに無意識のうちに、パートナー、親、子供、友人に対して、理想的な人間像を押し付けている瞬間があるかも知れません。

この本は、主人公の「父」の足跡を通して、父であったはずの一人の人間の人生に触れる物語です。一見不誠実に思える父の過去の足跡を、後からその子供である主人公が辿っていく物語ですが、核心に近づく程に、主人公が子供という立場を超えて、「一人の人間」として父を眺めることで、父の人生をありのまま受け止めるような作品として描写されていると思います。理想ではなく、ありのままを見る、そんな視点を教えてくれた作品です。

私個人の話をさせて頂くと、私は他者との会話において、言葉にならない行間や言葉が発せられた背後にあるものを読んだり、相手が伝えたいであろうことを図形や物として、頭の中で捉えて読み解くといったことを自然にしてきました。
私にとっては長い間、当たり前であったこのコミュニケーションの方法が、ある時を境に、大多数の人にとっては一般的ではないことに気付きました。

相手は、「説明してないのに、よく分かったね」と言うのですが、私にとっては、それが普通のことだったり、たまに会話が噛み合ってないなと感じることがあったのは、知覚している層が違うからだとわかったのです。

みんなが自分と同じ層をみていると思い込んで、読みとったことを口にして、「言ってないのに、なぜか知っている」と相手にバツが悪い思いをさせたこともあったと思います。
私は、長い間このエンパスのような力がもとで起こる孤独感のようなものを感じていました。具体的に言うならば、「説明しないと分かってもらえない」という一般的には当たり前のことが、ある意味私には孤独だったのです。

そんな私にとって、この本は救いになりました。
この本を読み終わった後、月並みですが割と真剣に「私は世界に一人じゃなかった」と思えたのです。
それどころか、「一瞬で消えていく感情にもならない泡のようなものたちを、一瞬一瞬根気強く捕まえて、あるべき言葉に置き換える、気の遠くなる様な作業をやってのけた人がこの世にいるのだ」と、自分と似たような感覚の、しかしずっと先を歩んでいる人がこの世にいると思えたことに、勇気づけられたのです。

機会がありましたら、是非お手に取ってみて下さい。

著者に感謝を込めて

いいなと思ったら応援しよう!