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許されない愛



俺は職場の後輩・ナツミとの不倫に溺れていた。毎晩のように残業と偽ってナツミの自宅マンションに入り浸って逢瀬を繰り返していた。最愛の妻・リエに対する裏切りに微塵も罪悪感を感じられない程に、俺はのぼせ上っていた。                                              「ねえ、いつ奥さんと別れるん?」                             「ああ、もうちょっと待ってくれ…」                               三十路を目前に控えているナツミは結婚を焦っている為か、執拗に離婚を急かしてくる。                                          しかし優柔不断な俺はリエに離婚を切り出せないでいた。ナツミの事は都合の良い女としか思えないのが俺の本音だったが、ナツミは本気だった。たった一度の過ちのはずが、気付いたら後戻りできなくなっていた。

悲劇は何の前触れもなく突然訪れた。久しぶりに早い時間に帰宅すると、リエが浴室で手首を切って大量の出血を伴い倒れていた。                        慌てふためく俺の背後に只ならぬ気配を感じて振り向くと、リエが可愛がっていた愛猫・モコが怒りを滲ませたような表情で俺を凝視していた。              モコは「シャー!」と俺を威嚇すると、何処へと走り去っていった。それ以降モコは帰って来なかった。どれだけ探しても見つからなかった。                                                                   俺は眼前の出来事に混乱しつつ救急車を呼び、必死でリエに呼び掛けたが、ぐったりして返事はなかった。                                  救急搬送されたリエは、懸命の治療も虚しく3時間後に息を引き取った。

リエの遺品に日記があったので内容を確認した俺は愕然とした。俺とナツミの関係に気付いていたリエは人知れず離婚の準備を進めていたのだ。しかし病んでしまっていたリエは突発的に自殺を図ったようだ。                   俺は日記の内容が誰の目にも触れないように日記を厳重に保管して、リエと過ごした日々やリエとの思い出を永久に封印した。                    

リエの自殺から2年後にナツミが妊娠した為、俺はナツミと再婚した。                リエとの間に子供はいなかったので、俺は素直に嬉しかった。                  やがてナツミは元気な女の子を出産。俺たち夫婦は幸せの絶頂にいた、かに見えたがやはり神様は俺たちに天罰を下したかったようだ。                   娘・ユウナが5才の誕生日を迎える前日に、乳癌を患っていたナツミは帰らぬ人となった。                                                       俺は幼いユウナを抱えてシングルファザーとして生涯を送る事となった。

ナツミが亡くなってから早10年、高校生になったユウナは学業と並行して家事もこなしてくれていたので随分助けられていた。                                          そんなある日、ユウナが一匹の猫を抱いて帰宅した。                                    「可愛いでしょ。友達から譲ってもらったんよ。うちで飼っていい?」                 ユウナが 抱いている猫を見て俺は驚愕した。その猫は紛れもなくモコだった。驚くべき事に、その猫は友達の家でもモコと名付けられていたそうだ。モコは俺とユウナに懐いた。何事もなかったかのように… 

深夜、喉の渇きで目覚めた俺は台所に赴いた。背後に気配を感じた俺がふり向くや否や、モコが俺に飛び掛かってきた。驚いて仰向けに転倒した俺の腹部に、流しの上に放置されていた包丁が落下して……                      リエとモコは俺を許していなかった。


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