3 輪廓
誰からも愛されていないことには、疾うの昔から気が付いていた。
夜7時、ひとりで残業をしながら、仕事場の誰かが少しだけ遠くで話していることに耳を傾ける。丁度、僕のことを褒めているみたいだ。少なくともそう聞こえる。もちろん、確証は持てない、持てないけれども、褒められているかもしれないと思いながら、僕は、ずっとそれを養分として生き長らえてきた、この二十五年間。
与えられた仕事をこなし、束の間の充足を得て、ねえ、僕は(と、そう告白する友達もいないけれど。)幼い頃から、絵を描く才能がなかったんだ。いつだって、僕の輪郭を描くのは、存在するとも知れない路傍の人だった。