【長編詩】紅い花
Ⅰ
対話するってことは、人に銃口を向けるってことなんだけどなあ。でも快感なのかもしれない。空気を貫いた先、きみの眼の上で、紅く、触手みたいに延びた彼岸花が咲いて、僕は、初めて、僕がきみに与えた影響力について思った。それは愛だね。けれども、きみのことを心から綺麗だと思うのと同時に、きみは、僕にとってただの作用点でしかないこと、僕の一生のうちに起こる幾つかの現象のひとつでしかないこと、僕は気が付いてしまって、だからこそ、なおさら、傷つけることそのもののように、愛を叫びたかったのだ。きみの言うように、光のない世界だよ、ここは。反射しないし、鏡なんてどこにもないみたいだから、自分が誰なのかすらも分からない。きっと物理的な痛みが伴わなければ、自分の眼に穴が空いていることにも気付かないんだろうね。誰かが、美人ねと嘯くように言った、下らないおべっかだけ、僕は、愚直に信じている。
きみに美人だって言えば、きみも、ほんの少しだけ長生きできるのかな。
、、、出来れば、瀕死のまま生き延びていて欲しい。
Ⅱ
薔薇の花が咲く誰かの庭を尻目に、ワイルドを読んでいた。本棚の奥から出てきた埃を被ったその本は、虫の死んだ匂いがして、なんだか、わたしの脳みそみたい。
わたしの考えていること、それを誰かに知られてしまうなんて、たしかに拷問ね。人を傷つけたくないなら、テレパシー使いにだけは、なっちゃいけないなあと思いました。分かろうなんて思っちゃいけないのかもしれない。絵を描いていても、貴方の言葉がつぎつぎとわたしの瞳を貫いていった。どんな言葉を口にすれば、一番鮮やかな血が出てくるんだろうとか、貴方は、そんなことをずっと考えていて、なんだか悪趣味ね。痛みとかさ、考えながら刺さないと、死んじゃうよ。同じようにずっと縋れるものなんてない。美しさは成長とともに失われてゆく。成長は老化の希望的観測。
そう、まだ美人だって思って、ただその力だけで生きていた。そういう種類の骸。そういう種類の器。真っ新なあなたの世界を、わたし色に染めたいと望むなら、わたしの胸から溢れ出る温い血を綺麗に拭き取って、貴方に、、、。窓から見える、紺青色に澄んだ空で、ナイチンゲールが鳴いている幻聴を聞いた。わたしはわたしが好き。だから貴方が愛を叫んでいるあいだでも、わたしはわたしの名誉のためなら、簡単に死んでしまうの。
わたしが死んでも、わたしの部屋にある絵は見ないでください。
光のない世界では、創作だけが鏡みたいなものだとか、馬鹿げたこと、考えないでね。貴方も、貴方の愛も、わたしも、わたしの愛も、等しく醜い。
わたしと貴方はたしかに似ている。
Ⅲ
似ている。それだけでどこか運命的で、だからこそこの世界のあちこちには、思いがけないふりをしたものが、幅をきかせた粗い石ころのようにごろごろ転がっている。
心がなにか分からなくて、眼を撃ってしまったけれど、僕たち真っ赤に染まって、路傍の石から生まれ変わる。似た者同士、花開くように、最後の一撃で心中しようね。
銃口がひとつしかないからなかなか同時には死ねないね、って言って、ああ、出来れば最期に、冗談で笑うきみが見たかったな。