【詩】夏
結論というものがないから、季節が好きだよ。
駅で停まった電車の窓に向かって、自分の持っているものすべてを投げつけたくなった。蝉時雨がさざめく空の下で、もう電車が行ってしまったプラットホームに佇んだまま、ただそこに、永遠に棲みついていたいような気持ちになった。
夜みたいに凪いでいた心が、日の光に熱されて、気化するみたいに膨張して、それは特段、そこらじゅうに漂う空気となにも変わりはしないけれど、皮膚に伝わる温度も、夏の空気とほとんど同じようなものだけれど、それでも僕は、その瞬間だけ、人間に戻れたような気がしたんだよ。
夏の電車のガラス戸はラムネ瓶で出来ていて、どこまでもつながる電線のなかには、きっとたくさんの花火師がいた。他人の熱に形作られた僕は、今ならなんの根拠もなく、きみに嫌いと言える気がした。