【詩】氷
形も大きさも違う氷が数個転がっていて、何かの拍子にそれらは砕けて、いつか溶けて水になる、水になると元あった形なんて関係なくなって、もともと他の氷だったかどうかも関係なくなって、あたかも自然なことであるかのように混じり合い、溶け合い、いつか誰かに取り分けられて、小さな容器に等分になるように振り分けられて、つまり、みんな同じ人間だって言うのは、そういうことを指して言っているのでしょう?みんなみんな幸せにって言うのは、平和主義っていうのは、こういうことを指して言うのでしょう?
みんな同じなら言葉なんていらないんだ。他人と自分は違う、そのことを証明するために言葉はあり、他人よりも優れていることを示すために言葉はある、差別はいけないと言ってみたり、誰かを差別する誰かに強い言葉を突き付けたり、けれど、本当にみんな同じになりたいならさ、言葉も身体も、ぜんぶ溶けた氷でできた水たまりに、すべて捨ててしまえよ、言葉なんて、みんなが平等になるためにはただの枷だ。
でも、溶け合うことなんて、誰も望んでなんかいないから、わたしも、他の氷を砕いて、自分だけ光って、誰とも溶け合わないでいたい。自分さえよければ、世界なんて氷のように砕けてしまって構わないのだと、いつか言えるくらい言葉を大事にしたい、って思いながら、いつか溶けてしまうその日が来るのが、ずっと怖くてたまらない。