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風何(ふうか)
2022年7月18日 00:11
シャワーで身体を丹念に洗い流すと、わたしの身体のあらゆるところに付着していた哲学も一緒に洗われてゆき、そのぶんだけわたしは昨日のわたしよりも綺麗になる。抜けた髪の毛はどんどん排水溝に溜まっていくのに、さっきまでわたしの一部だった自身の哲学は、いとも簡単に排水溝の網をすり抜け、流されたお湯に希釈され、どこかに溶けていく。そのことが寂しくないと言ったら噓になるけれど、あなたに嫌われるよりはいいかな、そ
2022年7月17日 07:24
きみの涙になりたいと思った。きみが本当に泣きたいとき、泣けないようにするため、ぼくはきみの涙になりたいと思った。物語には涙が必要で、涙のない物語は多くの人が退屈するものだから、だからきっと、涙を流せないきみの物語はいつしか消滅し、そして、きみはどんなに悲しくても、涙を流せず、鏡に泣き顔が映ることもないまま、年老いて消えていき、ぼくもまたきみのなかで綺麗なまま消えていく。そうして、ぼくだけがきみの
2022年7月16日 21:19
きみが好き本当のことは何一つ言わずに、数多の言葉を尽くして自分の周囲を塗り固めるように嘘を吐くきみは、どこか遠くにあるかもしれない一片の星のよう。きみが口にする誰かに対する罵倒も、きみが口にするどんな愛の言葉も、ぜんぶがぜんぶ嘘だとわたしには分かっているから、わたしは心の底からきみに好きだと言うことができるし、だからこそわたしはきみのことしか愛せない。嘘だけが、何も信じないことを肯定してくれる
2022年7月14日 23:27
夜空に広がる星々が綺麗に思えるのも、真昼の空に広がる青空が綺麗に思えるのも、遠くにいるかもしれない誰かが綺麗に思えるのも、すべては抽象的だから。ぜんぶがぜんぶとてつもなく遠くにあって、具体性に欠けているから。見たくないものを見なくて済んで、それで、あなたの綺麗だと思うものは綺麗なのですよ。綺麗なものには必ず理由があり、あなたの切望するような死という存在は、抽象性を孕んでいるからこそ綺麗なのです。
2022年7月11日 22:04
蝉が一斉に鳴き始めるのを聞いて、わたしは、人が行き交う大きな駅の構内の光景を思い出す。わたしは駅構内にひとり立ち尽くしていた。だからわたしも、そのとき、紛うことなきその光景の一部だった。そうしてその光景はいつまで経ってもなんら変わりないように見えるのだけれど、実際それは不変ではなくて、自動販売機の中身が入れ替わるのと同じくらい頻繁に移り変わっていくのだ、それは至極当たり前のことであるはずなのに、