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風何(ふうか)
2023年1月9日 18:37
夜、三十七度五分の両手を握り合わせて、きみのことを思い出す、きみの、あの体温のことを思い出す、暗い暗い瞼の裏を見つめて、「あのときのきみの手は、冷たかったのか、熱かったのか、」浮遊するみたいな意識と一緒に、血の流れる音がだんだんだんだん激しくなってゆくのを感じながら、けれども、それでも、ただただ小さくうずくまっているだけでもぼくは、ひとり、眠りにつくことができる、毛布のなかで突然変
2022年10月22日 17:30
指先が悴んで、体の中心から冷え切って、心までもが凍り付いてしまったみたいだと、そう錯覚するあいだ、季節だけはわたしをひとりにしないのかもしれない。「澄み渡った綺麗な夜空だね」と呟いて、本当は澄み渡ってなんかいないのかもしれないけれど、広い広い空が薄暗い雲にぜんぶ覆われているのかもしれないけれど、その冬の夜空が、ただそこにあるだけでわたしは、よかった、何も見えていなくても、何も見ようとしなくても、遠
2022年10月21日 18:08
生きてる人にしか、死ねと言うことなんてできないから、生きてる限り、ぼくには死ねと言われるだけの価値があって、だから死なない、ぼくは優しくもないし、綺麗でもないけれど、それはきっと、どこかに一輪だけ咲き誇る花みたいだよ、ぼくしかいない部屋でぼくは、そう叫んで、どこの誰でもいい、誰かにそう証明して欲しかった、優しい言葉で嫌いと言うきみが、綺麗な言葉でぼくなんていなくてもいいと言うきみが、な
2022年10月15日 06:59
交差点、ヘッドフォンから流れる音楽が、自分の瞳を空色に染めたくて、見上げた夜空が、 わたしだけを、この世界から綺麗に切り取ってしまってるみたいに思えた、12月、あのとき思えば、制服だけがわたしを証明するものだったよ、どこにもいかなくていいと歌う夜の音楽だけが18歳のわたしを彩っていたよ、淡い信号機の明かりにも、立ち並ぶ誘蛾灯の光にも、通りすがる車のヘッドライトにも、何にも染められな
2022年9月12日 12:18
嫌いなひとを思い浮かべながら、「嫌い」と呟くと、どこか遠くにいるその人が、空を飛び越えるみたいに、本当に傷ついて、それで、わたしも一緒に傷ついていた。傷口は存在証明らしいです、藻掻きながらそれでも生きるのが美しいらしいです、だから、ありがとう。あなたが、わたしの嫌いな人でいてくれて。あなたがわたしの嫌いな人でいる限り、わたしは、ずっと傷ついていられるよ。きっと、あなたもわたしも、ずっ
2022年9月12日 00:20
どんな顔なのかも、どこにいるのかも分からない、この本を書いたあなたのこと、ずっとずっと好きでいたくて、だから、ずっと泣き顔で読んでいたかった、あなたの本を、これ以上ないくらい、泣きながら読んでいたかった、はずなのに、真面目な顔をしなければいけないと思って、真面目な顔をして、そんな風にあなたもわたしも社会を見つめ始めたころ、物語を読み始めたころ、きっと、子どもだったわたしたちは死ん
2022年9月10日 18:24
夜空はまるで目を閉じているみたいで、街全体は寝息を立てているみたいで、午前未明、電車もバスも動いていないから、どこにも行かないことが許されて、死にたいと思うことも許されていた。ずっとずっと未明、午前三時のまま死んでしまいたい、そう思いながら、平凡な朝焼けが、カーテンの隙間から射してきて、眠りたくない気持ちだけ、浮ついて、浮ついて、知らないうちに焼かれていった。電車が走り始めた頃から
2022年9月9日 20:25
雨が降っているから星は見えなくて、だから空がいつもより深く遠くにあるように感じて、手を伸ばしてもなにも掴めない、星がひとつもないから、どこにも届かないような気がしている、けれど、そのぶんだけ、信号機の明かりや街灯の明かりが、普段より彩度を増しているような気もしている、ビルの部屋から漏れる光が、いつもより多い気もしている、そして、こうやって多くの物事の採算はとられてるんだろうなって思って
2022年9月8日 21:04
綺麗になりたい姿形が整っているだとかそんなことではなくて、宝石みたいに輝いてるだとかそんなことでもなくて、ただただ透き通っていて、匂いもなくて、どこまでもどこまでも水平線みたいで、きみたちの世界の検索にもまったくかからない、誰もわたしを認識しようとすることなく、ただ真水みたいに、不純物の一切もなく、たんぱく質でもないなにか。真水に比べたらみんな不純物だよ、とわたしは叫んでいる。それは自分
2022年9月4日 23:03
布団のなかでひとり蹲って、丸くなっていることしかできない、できないけれど、そのあいだだけ、欠けることのない満月にだってなれるんだと思った、月と違ってわたし自身が光ることなんてないけれど、月だって本当は月自身が光っているわけではないから、わたしはわたし以外の誰かが、わたしを照らしてくれることをどうしようもなく望んでいて、胎児のように丸まっている、いきなりすべてが浄化されたみたいに透明感を増して、綺麗
2022年8月17日 03:54
世界の真理を語るすべてのひとに「いや、あんた誰?」と言わずにはいられないぼくはきっと異星人、けれどもその言葉で、空気中は酸素や二酸化炭素に紛れて、たくさんのあんた誰?で溢れて返っていて、そのままみんなみんな窒息してしまえばいいと思った、教祖にでもなったつもりかよ、神様にでもなったつもりかよ、そう毒を吐いた瞬間に、きみたちが一斉に消えてしまえばいいと思った、正しさなんて所詮ただの権力だからさっさと死
2022年8月14日 22:09
あさ、あさひがまぶしくてひる、こうていをはしりまわってよる、くらいから、はやくあさになれ朝、朝日がまぶしくて昼、校ていを教室からながめて夜、こわいから、うまくねむれない朝、朝日が眩しくて昼、校庭は何処にも見えなくて夜、短いから、朝が死ねばいいと思った朝、朝日が眩しくて昼、太陽が眩しくて夜、月が眩しかった朝、玄関で死んで昼、部屋で腐って夜、月明り
2022年8月12日 14:30
ひとりでは生きていけないと誰かが言ったとき、生きるためには誰かと手を繋いでいなければいけないんだと思った。ペットボトルの中でひとり、ぼくは沈んでゆきたかった、放置されたティーバッグの茶渋みたいな夢を見ながら。でもぼくは確かにひとりじゃなくて、どうしようもなく広く見える世界のぜんぶが本当は壁だったらよかったのにと思いながら、きみの手を握る、きみの手を握ると、きみもぼくの手を強く握り返してきて、それで
2022年8月10日 08:31
「この世界に比べたらどこだってユートピアだよ」そんな風に言うきみが、誰にも裏切られなければいいなとぼくは思っていて、ぼくも、きみと同じように、死んだ後の世界くらいは幻想的であってほしいと思っている。まあただ、別に、きみのことが好きなわけではないけれど。きみ含めみんなみんな、ぼくは好きではないけれど。だから、誰のことも認めなくてよくて、それぞれが許される世界が、ぼくにとってはどこまでも理想郷で、