甘くて辛い熱意とセンスの人 武井武雄
2024年7月某日
生誕130年 武井武雄展~幻想の世界へようこそ~
目黒区美術館
武井武雄をご存じ?
実はよく知らなかった私。
「童画」というワードを生み出した「童画家」。
だけでなく版画家、デザイナー、教育家としても活躍。マルチだ。
さらに郷土玩具収集にのめり込み、本まで出した。
その本は郷土玩具界のバイブル的なものなのだとか。
というのを知ったのは『アウト・オブ・民藝』という書籍から。
気が向いたときにちびちび読んでいる、おもしろい本なの。
で、ちょいちょい登場する武井武雄が記憶のどこかにインプットされていて、目黒区美術館で開催されている生誕130年の展覧会へ行ってきた。
武井自身が創り出したもの、童画や刊本がいっぱい。
いや~楽しかったな~月並みな言い方だけど、童心に帰るわ~
一方たくさんの刊本は、デザインや技術の粋がギューッと凝縮されて美しかった。
すごくこだわって造りあげた芸術品。
マルチなだけにいろんなエピソードもあるんだけど、一番グッときたのはココかな↓
子供向けの雑誌に携わった当初はアルバイト気分だったけど、他の画家が片手間で絵を描いているのにムカムカしてきた。
やがて「子供のために自分の能力をささげる」「子どものための芸術こそ本物の芸術でなければならない」
とアルバイト根性を捨て去り、童画家の道を突き進んだ。
それでは忘れかけていた童心を思い出すプチトリップへゴーーー!
●プロローグ
16歳くらいですでに絵がうまい。
当時の水彩画、よく残ってるなあ。
と思っていたら「AUTOPORTRAIT DE AVRIL」では急におもしろ&洒落たセンスも見せる。
メリハリって大事。
こだわりとセンスの塊みたいな本。1冊ずつ螺鈿細工を施しているんですもの。
試作品でいろんなデザイン展開が見られた。
・日本童画家協会展 招待状
こんな招待状もらったら嬉しいだろうな~
茶とカーキの渋い色味にゴールドが効いてる!ネイビーも少し。
この招待状のコレクターがいたらしい。その気持ち、わかる~
●第1章 童画
動物たちがかわいいだけじゃあなく、キャラがたってておもしろ。
鳥が擬人化されて描かれていたりして、ちょっぴり歌川国芳テイスト。
子供向けだからって子供だましじゃあない、ハイクオリティな雑誌。
クリエーターたちのメンツも一流。
今回初めて知ったんだけど、すごい好きになった。
いいキャラだな~表情がなんともたまらん。
どうやら赤ノッポ 青ノッポが人間の学校に転校してくるお話で、
ちゃんと制服を着てるんだけど、ノッポだから上着がつんつるてんw
ちなみにこの後のコマで、学生帽をツノに引っ掛けてたら先生に注意されるって細かいオチが好きよ。
ハーメルンとかジャックとまめのきとか、メジャーな作品も描きつつ、
オリジナリティあふれるイラスト作品がいっぱい。
●第2章 版画
ぐっと民藝の雰囲気に。あ、アウト・オブ・民藝でもある。
・おもちゃ絵諸國めぐり
各県の郷土玩具を伝承木版で。素朴でいい味。配置とか色の組み合わせがいいな~伊勢辰の作。
・いろは四十八面集
いろんなお面を版画で表現。こちらも伊勢辰作。
みんないい面構え。
・愛蔵こけし図譜
「愛蔵こけし図譜 一ノ関 宮本永吉」
というように、地名と作者まで記載されてるのがポイント。
さすが収集家・武井武雄って感じ。
こけしは地方によってそれぞれに特色があるのよね
以前まとまって観る機会があって、クラクラした。
・榛の会
版画仲間で年賀状を出し合う。
なかよし~かと思いきや、コンペ的な感じでおもんなかったら脱退とか、意外とハード。
●第3章 刊本
デザインへのこだわり、技法の探求がすごいーーー
各ページのイラストが壁に展示されているんだけど、
ちょっぴりヒエロニムス・ボスの世界に似てるものを感じた
ちなみに劇作家の飯沢匡は、武井武雄とパウル・クレーの類似性をしてきしたのだとか。なるほど~
素材や技法への気合がすごい武井武雄。パピルスに手をだすのは必然か。
日本でパピルスを作ってる人に依頼。この人もすごくて、原料を栽培するところからやっていたそう。
●第4章 デザイン
・漫画かるた 赤ノッポ青ノッポ 1948
みんな大好き『赤ノッポ 青ノッポ』で遊べるぞ!
・手作りのトランプ 1945-1948
娘からのリクエストに応えて手作りしたトランプ。
物がない時代に、古葉書をリメイクしたもの
●第5章 木にとまりたかった木のはなし
黒柳徹子が、自分のお話に絵をつけてくれるよう武井武雄に直接頼んでいた。
がその後武井武雄が亡くなってしまう。
娘の三春さんに相談し、武井武雄が描いた作品から場面にあった絵を選んでいったんだとか。
不思議と、お話と絵がマッチしてるんだよな~
●エピローグ 武井武雄が考える平和とは?
シニカルかつユーモラス。
こんなイカした文章を何十年も前に書いていた武井武雄。
何十年経っても、平和はまだまだだけどねえ…
もしも愛するものがあったら
遠くにおいて手を伸ばさない事にしよう。
征服は又の名を惨敗という。
っていうかなりパンチが効いた文章が添えられている(一部を抜粋)。
ほんわかした画風にピリッとした言葉の組み合わせ。
これぞ武井武雄ワールドだなあと感じた。
この絵を最初に観たとき、ちょっとボスぽいって思ったんだよね。
●その他つれづれに
機会があったらイルフ童画館を訪れてみたい。
武井武雄の芸術がつまったミュージアムだそう。
武井武雄を中心とした相関図・「アウト・オブ・民藝的武井武雄のネットワーク」がおもしろい。
展覧会にはまったく関係ないけど「JAZOO MANIA」っていう自転車同好会に参加してた、ってつながりもあってビックリ。
自転車を愛する芸術家立ちと遠乗りを楽しんでいたらしい。
ほんと好奇心が尽きないね!