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ハッピーファミリー (第二幕)

大学の演劇サークルの新人公演にしてはあまりにも難解、暗い、陰湿で採用されなかったのでNoteに載せました。



第二幕
(第一幕から1週間後。場所は同じく番組セットの中。右から江川、松坂、佐々木の順で立っており、何やら緊張や不安が入り混じった様子である。3人はもうすぐ始まるサストリゲームに向けて話始める。)
松坂 (不安げに) ねえ。サストリゲームってどうやったら勝者になれるって伸介さん言ってたっけ?先週ハッピーファミリーの罰ゲームで飲んだドリンク、マジで苦いし、アルコール度数強すぎたからもうベロンベロンに酔っちゃってさー。酔いすぎて道端でマネージャーの足にコアラの様にしがみついていたところをパパラッチにすっぱ抜かれちゃったよ……嫌だ。負けたくない。
江川 (緊張しつつも少し驚いた様子で) それは災難だけど祐介、お前伸介さんの話聞いてなかったのか? (長嶋の口調、仕草を真似して) 「舞台が暗くなったら照明がどっかに照らされるから、初めにそこに入った奴が勝ちや~ほな頑張って~」って言ってたでしょ?(諭すように) まあ罰ゲームは確かに辛いけど……俺たちはハッピーファミリーなんだから。内にも外にもできるだけ多くハッピーを作らないと…… (切り替えて) とにかく俺は罰ゲームなんか受けたくない!勝利の女神は俺に微笑む!
松坂 (誤魔化すように) ……あぁ!それそれ!伸介さんそう言ってた!だったら全力でゲームを楽しんで沢山ハッピーを作らなくちゃ!罰ゲームは受けたくないけど!ハッピーファミリーなんだから!よっしゃー!負けないぞ!
佐々木 (不安そうだが、江川と松坂とは違う不安を抱えている様子で) あの……江川さん、松坂君、もし僕たちの誰かがサストリゲームに勝っても負けても罰ゲームは有るんじゃないかな……
(場が凍り付き始める)
佐々木 (続けて) それならもうゲームに勝つとか負けるとかそういう問題じゃないんじゃないかな……ハッピーを作るならゲームに勝つ必要があるのかな……それがよくわからないんだ……
(沈黙。江川と松坂は佐々木の発言がまるで冒涜であるかのような様子でいる。)
江川 (信じられない様子で) 直紀。お前何を言っているんだ?
松坂 (驚きを隠せない様子で) 直紀お兄ちゃん……
江川 (正義感が込み上げてきて) ゲームなら勝つのが当たり前じゃないのか?ゲームに勝てばそれでハッピーファミリーのファンが増える。何ならハッピーファミリーになってくれるさ!
松坂 (佐々木を説得するように) そうだよお兄ちゃん!ゲームは本気でやって本気で競争して勝敗を決めるものだよ!ゲームに勝てば自分も周りもハッピーにできるんだよ!お兄ちゃんもハッピーファミリーの一員なんだから逆張りせずに謙虚に生きて行こうよ!
佐々木 (少しいらだった様子で) だったら前僕が白井アナに「激苦青汁・ジン・ウォッカ・ラム・テキーラ割り」を飲まされたのは一体何だったんだろうか?それがちょっと判然としない……
(沈黙)
江川 (あきれた様子で) それはな、直紀、お前がハッピーファミリーの中でそういう役割だからだよ。お前が「激苦青汁・ジン・ウォッカ・ラム・テキーラ割り」を飲んでハッピーファミリーがハッピーでいられる。観客もハッピーにできる。それでお前は十分じゃないか。
松坂 (同じくあきれた様子で) 武志お兄ちゃんの言う通りだよ。直紀お兄ちゃんは直紀お兄ちゃんだからいつも俺たちがハッピーファミリーでいられられるんだよ。
佐々木 それはそうだけど……なんというか……あのドリンクを飲まされて僕がハッピーであるかどうかがわからない……確かに僕が飲んだことで周りがハッピーになっただろうけど……
江川 (被せ気味に) それでいいじゃないか!
(佐々木は何かを言おうとするが、まるで発言をさせまいと遮るように舞台が暗転して軽快な音楽が流れ始める。江川と松坂は当惑しながらもどこに照明が当たるのかを模索しようとあちこちをせわしなく動き始める。)
松坂 あ!始まった!待って待って暗い!
江川 何も見えねえ。どこに照明が当たるんだ?
(佐々木は先ほどの会話を引きずっている様子で、黙ってうつむいたまま直立している。)
江川 負けたくない!
松坂 俺も!
(しばらくすると照明が照らされる。その中には佐々木がうつむいたまま立っていた。)
松坂 (悔しがって) うわーまじかー負けたー
江川 (落胆して) また直紀に負けたわ……罰ゲーム確定だ……
(光に照らされた佐々木は観客に向かって語り始める。)
佐々木 (語り口調で) 間違いなくサストリゲームには勝ちました。そしてその後の展開も予測することは容易でした。江川さんと松坂君はどちらも罰ゲームと表現していましたが、それは本当に罰なのでしょうか?確かに辛いところはあります。ですが、赤いチューブでつながっているのなら苦しみを共有できる。幸せを共有できる。そう伸介さんに言われました。幸せを共有できるなら……僕も幸せになれるかもしれません……とにかく……(言葉を詰まらせる) 僕がハッピーファミリーのメンバーとして居続けたほうがいいのかもしれません……よその家に居候できるかわからないから……
(暗転)

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