[創作]進路はつづくよどこまでも(原案)④
文芸サークルの会誌用に創作した作品です。拙文ですが、どうぞお楽しみください。
進路はつづくよどこまでも
場所
株式会社SAITO 面接室
人物
万丈大輝(ばんじょう だいき)
就活生。 船場大学文学部英文学科四年生。
伊藤
面接官。四十代。
三井
面接官。三十代後半。
リク
ナビサイトの精霊。 見た目は二十歳前後の男性。
マイ
ナビサイトの精霊。 見た目は二十歳前後の女性。
大杉
大卒の新卒エージェント。二十代。
お母さん
万丈の母。五十代。
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伊藤: では万丈さんはこれまで何か失敗した経験はございますか?
お母さん: (ささやき声で)中学生の時、陸上部を退部したこと。退部したこと。
(沈黙。)
万丈: (うつむいたまま) …
お母さん: (少し苛立ったささやき声で) 陸上部を退部したこと。退部したこと。
万丈: (うつむいたまま) …
お母さん: (感情的に。大きなささやき声で) 退部したこと!
(突然万丈はうつむいたまま乱暴に立ち上がる。彼はこぶしを強く握りしめており、お母さんに対する怒りを隠せないでいる。お母さんは万丈を見上げ断固とした表情を見せている。面接官たちは特に驚くこともなく彼を見つめている。)
万丈: (我に返って) 失礼しました。 (着席)
伊藤: いえいえ。お気になさらず。(三井うなづく。)
万丈: 私が失敗した経験は…中学時代に陸上部を退部したことです…それは心の…怪我で…怪我で…退部してしまったのですが……そこでの失敗を生かして…悔しさをバネに…受験を頑張って合格し…大学でサークルのイベントを成功させました…御社でもこの経験を…活かし…たいです。
(伊藤と三井はうなづき、メモを取る。)
三井: ありがとうございます。
伊藤: では最後に何か質問はありますか?
(リクとマイ登場。マイはつるはしを右手に持っている。二人はステージ中央の後ろ側で面接を見守る。)
お母さん: (ささやき声で) 福利厚生は?
万丈: (無視) あの…職場は普段どのような雰囲気なのか…教えて…いただけますでしょうか… (お母さん、万丈をにらむ)
リク: 頂点を知ること。それは強者の証。
マイ: (エドはるみ風に) あなたとわたしでまっちんグゥ~ (右手でグッドサインを作り、前に突き出す。)
伊藤: そうですね。弊社では普段和やかな雰囲気に包まれていますよ。実際に堅実で落ち着きのある人たちが多くて、お互いを高め合いながらもお互いを尊重する。そのような印象を私は受けますね。
三井: (微笑んで) 私も同じく普段は和やかでアットホームな印象を受けます。万丈さんがおっしゃっていたように主体性を持っている人も多く見受けられますよ。
万丈: ありがとう…ございます…(お辞儀をする)
三井: 他に質問はありますか?
お母さん: (苛立ちを隠せていないささやき声で) 福利厚生!
万丈: (無視) 特には…
お母さん: (乱暴に席を立ち、声を荒げる) 福利厚生のことを聞きなさいって言ってるでしょ!
(長い沈黙。全員がお母さんを見る。)
万丈: え…あ…その…
三井: (お母さんをなだめるように) 弊社では従業員に長く勤務していただくために福利厚生を徹底的に充実させております。完全週休二日制、フレックスタイム制、有給二十日、有給完全消化、十七時完全退社、育児休暇、時短勤務にオンライン勤務。みなし残業を廃止し、固定残業を廃止し、賞与を年二回与え、社内教育を充実させ、業務は関連会社に委託し、しまいには残業を廃止する。お母さまご安心ください。我々が万丈さんを囲い、末永くお守りいたします。
伊藤: ちなみに新卒の基本給は二十五万で平均年収は千百万でございます。ご安心を。
(お母さんは納得した様子で椅子に座る。)
リク: 白黒はっきりつきましたね。
マイ: ほんとそれ!四つ角全部白で埋まっちゃった!
伊藤: ほかに質問はありませんよね?
万丈: はい…大丈夫です…
伊藤: 以上で株式会社SAITOの最終面接を終わります。本日はありがとうございました。
万丈: はい…本日は…ありがとうございました… (席を立つ)
(万丈は右へと歩き初め、右端で面接官たちの方向を向き、立ち止まる。)
リク: (ナレーション風に) 富、名声、力、この世の全てを手に入れた男。就活王・万丈大輝。彼の去り際に放った一言は、人々を海へ駆り立てた。
万丈: 本日は…貴重なお時間…ありがとう…ございました…失礼…します…
リク: (ナレーション風に) 就活生たちは内々定を目指し、夢を追い続ける。世はまさに大企業時代!
(沈黙。)
万丈: …
(万丈退場。お母さんが席を立ち離れようとしたところに三井が声をかける。)
三井: お母さまお待ちください。これにご記入をお願いします。
つづく
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