ハッピーファミリー (第4幕)
大学の劇団サークルの新人公演用に執筆しましたが、余りにも異質で陰湿で難解だったので没になった戯曲です。
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第四幕
(場面は番組終了後。舞台には右手に佐々木、左に長嶋が立っており、長嶋は左手に退場しようとしている。佐々木は長嶋に対し不服そうに声をかける。)
佐々木 あの……長嶋さん……
長嶋 (佐々木の方向を振り返って) ん?直紀、どしたんや?
佐々木 (遠回しに反論するように) あの……ゲームの後の罰ゲームのことについてなんですが……なんでいつも僕もなんですか……僕、勝っても負けても罰ゲームを受けている気がします……江川さんや松坂君がゲームに勝ったときは特に罰ゲームを受けていなかったのに……
長嶋 それがどうしたんや?不満なんか?
佐々木 いや、その……それが罰ゲームとしていいのかなって……
長嶋 (少し苛立った様子で) それとこれとは別や。直紀は直紀だからや。
佐々木 (少し反抗して) いえ……伸介さん……それは……ある種の理不尽じゃ……
長嶋 (苛立ちを隠せず) あのな、直紀。あんたはハッピーファミリーの一員なんやで。ファミリーの自覚を持ちや。
佐々木 (同じく苛立って) なんですか?その……ファミリーの自覚って……
長嶋 (苛立ちは残っているが抑えて) ファミリーの自覚っちゅーのはできるだけ多くのファミリーをハッピーにすることや。出来るだけ多くの人、程度、場所をハッピーにしなければあかんのや。
佐々木 (反抗して) それなら……僕はハッピーなんですか?
長嶋 (関心がなさそうに) わからん。人のほんまの気持ちは分からへん。「よそはよそ、うちはうち。」っよう言うとるやろ?
佐々木 (反抗する気持ちが抑えられず) それでも……!僕も幸せに……!
長嶋 (憤慨して) 直紀!お前はもうすでにハッピーやろ!
佐々木 (興奮して) 僕はハッピーじゃないんです!
長嶋 (怒鳴りつけて) 佐々木!
(沈黙。長嶋は佐々木がまるで禁忌に触れてしまったかの様に怒りが収まらない様子でいる。)
長嶋 (怒りをあらわにして) 佐々木!お前はハッピーファミリーを乱す存在や!少しでも多くの人のハッピーを生み出す、どの番組よりもハッピーを生み出すという意識がなさすぎや!お前は自分のことしか考えてへん自己中で最低な人間の屑や!家から出てけ!
(再び気まずい沈黙が流れる。長嶋はふと我に返り、自分の想いを静かに語り始める。)
長嶋 (冷静さを取り戻して) すまん。感情的になってしもうたわ…… (記憶の底から思い出して言葉を紡ぐように) ええか。俺はハッピーファミリーの司会を持つようになってからずっと世の中にハッピーを増やさんといけないという使命を持っとるんや。そのためにはハッピーファミリーが一番HPPテレビでハッピーを作れる番組にならなあかん。西野が司会をやっとる「ホップドア」やタモさんのやっとる「スマイル・アラウド」よりもや。そして一番勝たなあかんのは他局の奴らや。珍獣ハンターなんかよりハッピーファミリーが多くの人のハッピーを増やせる番組にせなあかんのや……うちはドラえもんか伊右衛門か知らんが、ベンチャーの名無しの権左衛門に買収されるような番組、企業やないんや……だから……ハッピーファミリーはハッピーを生み出せる人しかいらへんのんや……
佐々木 ……
長嶋 (言いづらそうに) だから佐々木……ハッピーファミリーを降板してくれないか……?
佐々木 ……はい……
(長嶋は左手へ退場。残された佐々木は観客に向かって語り始める。)
佐々木 (語り口調で) こうして僕はハッピーファミリーから戦力外通告を受け、番組を降板することになりました。僕が赤いチューブだと思っていたものは本当にただの赤いチューブであったのかもしれません。それとも……僕がハッピーでなかったから赤いチューブというようにしか僕たちをつなぐ何かを解釈できなかっただけなのかもしれません……
(暗転)
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